映画祭の華!セリフのない意欲作『ブラ物語』Q&Aに世界各国の美人女優が集結
現在開催中の第31回東京国際映画祭で31日、『ツバル』(99)や『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(14)のファイト・ヘルマー監督の最新作でコンペティション部門に出品されている『ブラ物語』がワールド・プレミア上映され、上映後にQ&Aが開催。ヘルマー監督を筆頭に、パス・ヴェガ、ドニ・ラヴァン、フランキー・ウォラック、サヨラ・サファーロワ、ボリアナ・マノイロワ、イルメナ・チチコヴァら国際色豊かなキャスト陣が登壇した。
本作は定年退職を間近に控えた鉄道運転士の男が、最後に運転した列車の車体に引っかかっていた青いブラジャーの持ち主を探して、線路沿いの家々に住む女性たちを訪ねて歩く物語。『アンダーグラウンド』(95)のミキ・マノイロヴィッチが主演を務め、全編にわたってセリフを排したクリエイティブな作品に仕上がっている。
ヘルマー監督は冒頭から「撮影はちょうど1年前だった」と振り返り、警察に止められたことやスタッフに逃げられたこと、アゼルバイジャンからジョージアに渡って何とか続行できたことなど、波乱に満ちた撮影の様子を語る。「実はこの映画のメイキングをドキュメンタリー映画にしていて、そちらもアムステルダムの映画祭に出品することになったんだ。是非観ていただきたい」と笑顔で宣伝。
一方で、今日日本に到着したばかりのドニは、ヘルマー監督のデビュー作『ツバル』で主演を務め、本作では主人公の同僚の運転士を演じている。「実は私は最後のほうで急遽撮影に呼ばれ、シナリオを読まないまま3日間撮影したんだ」と明かすドニ。「この作品に関わったことで『ツバル』のことや、日本に来たということでカラックスの『メルド』のことなどが走馬灯のように蘇ってきました」と、その場に立ち上がって喜びを体現した。
さらに「この映画を観ていると『ツバル』にあった要素と共通点を感じた。例えば主人公が鎖で繋がれるシーンだったり、シナリオだったり、愛とか慎み深さもそうだ」と語ったドニ。本作でも共演しているチュルパン・ハマートヴァとは『ツバル』でも共演しており、同作ではチュルパンのブラジャーの匂いをかぐシーンがあった。ドニはそれを思い出すと笑顔を浮かべながら「もしかしたら20年前に使ったブラジャーなのかと思ったよ」と笑いを誘った。
そんな中、ヘルマー監督は「しばらくセリフのある作品を撮ってきましたが、いつも違和感があった。その点で本作では原点に帰ってきたと思っている」と明かす。そして「アゼルバイジャンのバクーの集落を見たとき、待ちに待ったものが現れたと思った。僕はジム・ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』が好きで、それぞれの世界を持つ女性たちを持つ女性たちの家を訪ねて行くストーリーを再現したかったんだ」と、本作の着想の経緯を語った。
またヘルマー監督は、Q&A前に行われた記者会見の場で、セリフを排した作品を作る理由について「ヒッチコックが言った。言葉で話したことを人は忘れる。そして同じ時にフランソワ・トリュフォーは、喋っている人を撮るのは演劇を映画にしているだけだとも言った」と偉大な先人の名前を挙げて解説。「無声映画ではない、新しい映画の形を見せることで、映画というものを前進ささせていきたい。どの国で上映しても翻訳も字幕も吹き替えもいらない、普遍的なアートになったと思っている」とその表現に込められた可能性の大きさに、強い自信をのぞかせていた。
取材・文/久保田 和馬