W杯南ア大会決勝戦の日本人審判が語る大舞台の裏側とは?
サッカーを審判の側から描いた画期的なドキュメンタリー『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』(公開中)の上映記念イベントが9月12日、渋谷アップリンク・ファクトリーで行われ、W杯南ア大会に出場し、日本人審判として史上初めて決勝戦のピッチに立った国際主審の西村雄一と、国際副審の相樂亨がトークショーを行った。
映画の上映後に審判団に寄贈されたマッチボールや、決勝戦を担当したレフェリーに用意されたメダル、実際にピッチで使われたレッドカードやイエローカードなど、貴重な品々と共に登場した西村雄一は「正しい判定ができて良かったと日に日に思う」と大会を終えての率直な感想を語った。
今回の南アフリカ大会では、審判の誤審や疑惑の判定について様々な議論を呼んだことについて、西村は「同じような状況が起こっても同じように正しく判定できなかったかもしれないという気持ちはいつでも持っている。一生懸命、我々は努力しているけれど、運も必要で、一瞬にして3つや4つのプレーが行われる時には見られないこともある」と語り、続けて相樂も「あの問題の試合に当たっていたら、同じ状況に遭って、おそらくこういうイベントには呼ばれることはなかったでしょう(笑)」と自らのことのように痛切に感じていたことを告白した。
また、実際にピッチを共にした優勝国のスペインチームについて、相樂は「スペインはオフサイドが難しい。フェルナンド・トーレスと思ってずっと見ていると、シャビが出てきたり、ダビド・ビジャが出てきたり、中盤が周囲を見てパスが回せている。だから気が抜けないというより、少し余裕を持たなきゃいけない。線審は一点集中したら、他のものが見えなくなってしまうから、集中してはだめなんです」と副審ならではの視点で分析。それに対し、西村は「1つのパスが出た時に、ボールに合わせて動くのではなく、4つのパスを回す間に両サイドがうまく上がってきて5本目に効果的なパスを出す、と予想しながら見るようにする。スペインはやろうとしている戦術が本当に高い技術で行われるので、出るパスと出ないパスがわかるし、ミスパスもないから、ある意味、先を読みやすいんですよ」と主審の視点からスペインの組織力の高さを語った。さらにスペインがレフェリーのジャッジを受け入れ、判定に左右されず自分たちの素晴らしいプレーをすることで勝ち上がってきたことを強調。「スペインは今回、フェアプレー賞を獲って優勝していますが、彼らの審判へのリスペクトとマナーの良さは素晴らしかった。たとえば中盤でファウルをしても、カルレス・プジョルが最終ラインから上がってきて『レフェリー、グッドジャッジ!』と自分たちのファウルでも言ってきてくれる。そういうことはゲーム中あまりないんです」と まさにピッチに立ってレフェリーをしていないとわからないエピソードを語り、再度スペインチームを評価た。
最後に西村は「すべてのレフェリーが正しく判定しようと思ってやっています。今はみなさん、懐疑的な部分があるかもしれないけど、審判の判定はほとんど合っていると思って試合を見ていただくと、プレーヤーに対して、ファウルにならないように頑張れ、という気持ちになっていく。そうすることでもっとたくましいプレーヤーが増えていき、そして代表選手がメダルを持ち帰ってくれることにつながっていく、と信じています」と語り、相樂は「ヨーロッパではプレーヤーが簡単に倒れる時に、審判に非難がいくのではなく、サポーターが選手にブーイングを浴びせるシーンを体験しますが、そういう見方をしてもらうことで、間違いなく日本のサッカーは強くなると思います」と、熱く語って締めくくった。
本作を観ると、また違った視点から試合が見られるのではないだろうか。【MovieWalker】