中国で5年間の映画製作・上映禁止処分の鬼才ロウ・イエ監督はなぜ映画を撮り続ける?
『天安門、恋人たち』(06)で中国電影局から5年間の映画製作・上映禁止処分を受けた鬼才ロウ・イエ監督。でも、処分に屈せず、今度はまた中国で禁じられている同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(11月6日公開)を放ち、第62回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。果たして、この反骨精神あふれるフィルムメーカーの素顔とは? 来日したロウ・イエ監督を直撃した。
『スプリング・フィーバー』は、同性愛のカップルを中心にした男女5人のロマンスを家庭用ビデオで撮り上げた野心作。カンヌ映画祭には中国電影局の許可が下りない中で出品したが、やはり世界は彼の才能を認めていた。脚本賞を受賞した時は「してやったり!」と思ったのだろうか。「とても嬉しかったです。本作に関わったスタッフや役者さんは若い人たちばかり。彼らを引き連れてカンヌに行き、賞をもらえたから格別な思いでした」。
今作は同性愛というスキャンダラスな題材を描きつつも、普遍的な愛の物語という印象を受ける。「同性愛を撮るのではなく、純粋なラブストーリーを撮ろうと思いました。まず舞台を決めて、メイ・フォンが脚本の第1稿を作り、主演のふたりをキャスティングした後で随時脚本を変えて行く作業をしました。他の脚本家だと本が上がった時点で仕事は終わり。でもメイ・フォンはずっと撮影の現場にいて脚本を変更し続け、最後は編集まで立ち会ってくれました」。なるほど、だから役者間の演技がリアルでエモーショナルなのだ。
これまで歴史に翻弄される個人を描いてきたロウ・イエ監督だが、今回は日常生活の中で愛に翻弄される5人の男女を撮り上げた。彼がチャレンジしたかった点とは? 「本作は『天安門、恋人たち』のように歴史を背景にした物語ではないけど、5人の真実を描くことで、今日の中国の現状をしっかりと描いたつもりです。彼らの人間関係の複雑さから見えてくるのは、今の中国社会そのもの。歴史の多くは記憶に基づいて構成され、曖昧な部分もあるけど、今、現在を描けば、よりリアルに中国を描けると思いました」。
監督は『ふたりの人魚』でも中国国内で上映禁止処分を受けたが、反国家権力というのは、作品を作るうえでバイタリティになるのだろうか? と聞いてみると、「はい。撮っちゃだめだと言われれば撮りたくなります」と苦笑い。
そういった処分を受けた時、監督が中国の無慈悲な検閲制度を世界に知らしめることができて良かったと言っていたのが印象的だった。「結果、良かったと思いました。今、中国ではかなりジェネレーションギャップがあり、映画の検閲制度があること自体を知っている若者が少ないので、世界はもちろん、彼ら若者たちにも関心を持ってほしかったので。また、5年間の禁止処分を受けた時、フランスの大学の先生や映画界の方たちが処分を解くよう署名活動をしてくれました。彼らにはとても感謝しています」。
そんな支援者の思いを受けつつも、果敢にカメラを回し続けることは並大抵の精神力ではできない。「私の前にも何人か監督業の停止処分を受けていますが、多くの人はそのまま監督を辞めてしまいました。でも、私は撮り続けます。なぜなら私は映画監督だから」。
惚れ惚れするほど、姿勢が男前な映画監督ロウ・イエ。中国の電影局に叱咤されながらも彼の創作意欲を駆り立てるのは、母国中国を活写したいという思いだ。だからこそ、今後もアグレッシブな姿勢を貫いてもらえるよう、我々からもエールを送りたい。【Movie Walker/山崎伸子】