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瀬々監督が叩きつける骨太なメッセージ…話題のWOWOWドラマ「悪党」第2話をクロスレビュー!

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瀬々監督が叩きつける骨太なメッセージ…話題のWOWOWドラマ「悪党」第2話をクロスレビュー!

現在、WOWOWの連続ドラマW枠にて放送されている「悪党 ~加害者追跡調査~」。豪華キャストとスタッフが集結していることでも話題を集めている本作の第2話を、映画ライターが一足先に鑑賞。その熱いレビューをお届けする。

監督がデビュー作からこだわり続ける犯罪周辺の人間群像(映画ライター・森直人)

瀬々敬久監督の映画を観続けている者ならわかるだろう。「悪党」は彼の全力投球だと。

話題のWOWOWの連続ドラマW「悪党 ~加害者追跡調査~」を映画ライターがクロスレビュー!
話題のWOWOWの連続ドラマW「悪党 ~加害者追跡調査~」を映画ライターがクロスレビュー! [c]1996-2019 WOWOW INC.

このWOWOWドラマは、昨年の傑作映画2本から生命線を引き継いでいる。原作が『友罪』(18)と同じ薬丸岳。主演が『菊とギロチン』(18)で組んだ東出昌大。特に主題面での『友罪』からの連続性は重要だ。共に“少年犯罪の、その後”を扱っており、あの映画が社会復帰に苦しむ元少年A=加害者の事情や内面に寄り添ったのに対し、「悪党」は事件で殺害された者の遺族=被害者の怒りと哀しみの行方を中心に見つめていく。

つまり作品同士が対話するようなワンセットの関係にある。また『ヘヴンズ ストーリー』(10)や『64-ロクヨン- 前編/後編』(16)など、瀬々監督がデビュー作『課外授業 暴行』(89)からこだわり続けてきた犯罪の周辺で起こる人間群像という“本流”に連なるものだ。

さて、全6話からなる「悪党」の第2話「復讐」は、16年前、若いシングルマザーが交際男性のもとに出かけるため、自宅に鍵を掛けて幼い兄弟を放置した事件の“その後”がメインエピソード。当時亡くなった次男の兄の早見剛という青年を『菊とギロチン』で瑞々しい熱演を見せた寛一郎が演じる。

東出昌大が新境地の演技を見せる
東出昌大が新境地の演技を見せる[c]1996-2019 WOWOW INC.

実在の事件をモチーフとした『誰も知らない』(04/監督:是枝裕和)や『子宮に沈める』(13/監督:緒方貴臣)と共振するネグレクトの深い闇。養護施設で育った剛は、消息のわからない母・美代子(山口紗弥加)の現在について探偵に依頼する。

もちろん本作が目指すのは正義の裁きを振りかざすことではない。“負の連鎖”を断ち切るにはどうすればいいか、との模索だ。答えが出るかどうかも判らない難問。それでも“復讐”と“赦し”の間を丹念に揺れ動き、希望を手放さないのが瀬々敬久である。この第2話では白黒のどちらかに傾きがちな世界に、淡い光が差すブルーグレーの色彩を感じた。一時間弱の尺で、妥協なく考察を突き詰める芝居と演出の熱量は圧巻である。

犯罪と犯罪者、贖罪を多角的な視線で炙り出す(映画ライター・イソガイマサト)

新川優愛演じるキャバクラ嬢・はるかの助けを借り、姉殺しの悪党たちへと近づいてゆく
新川優愛演じるキャバクラ嬢・はるかの助けを借り、姉殺しの悪党たちへと近づいてゆく[c]1996-2019 WOWOW INC.

そのクオリティの高さと挑戦的な制作スタンスで、これまでにも数々の傑作を世に送り出してきたWOWOWの「連続ドラマW」。『64-ロクヨン- 前編/後編』の瀬々敬久監督と東出昌大が昨年の『菊とギロチン』に続いてタッグを組み、薬丸岳の同名小説を映画化した「悪党~加害者追跡調査~」も過去の傑作ドラマを凌駕するおもしろさと深いテーマで観る者の心をわしづかみにする本格ミステリーだ。

まず、何より設定が斬新で興味深い。東出が演じる主人公の佐伯修一は、問題を起こして警察を辞めたしがない探偵。幼いころに姉を殺され、その悲しみと憎しみから逃れられない彼が探偵業を続けながら姉を殺した3人の犯人たち接近していく…。と、それだけだとよくある犯罪ドラマだが、本作がユニークなのは、佐伯の働く探偵事務所が犯罪の被害者遺族の依頼を受け、加害者の追跡調査を専門に行っているところだろう。

第1話のラストの衝撃的な展開により…
第1話のラストの衝撃的な展開により…[c]1996-2019 WOWOW INC.

しかも、第1話では、11年前に息子を殺された依頼者のたばこ店の主・細谷(渡辺いっけい)が、佐伯の目の前で加害者の坂上(青柳翔)をナイフで刺し、彼を半身不随にする新たなる憎悪のドラマを生む。要は、深淵なテーマに切り込むための“種”が撒かれ、準備が整ったというわけだ。

逆の言い方をするなら、物語が動き出すのは第2話から。佐伯が育児放棄をして弟を死なせた母親の捜索を依頼してくる建設会社の従業員・早見と向き合いながら、キャバクラ嬢・はるか(新川優愛)の助けを借りて姉殺しの3人の“悪党”に辿り着き、しかもそこでは複数の愛憎が狂おしく絡み合うのだ。果たして、佐伯は憎しみを抱えた依頼者たちと向き合う中で、自らの抑えられない衝動にどう決着をつけるのか?

柄本明など実力派俳優たちが脇を固める
柄本明など実力派俳優たちが脇を固める[c]1996-2019 WOWOW INC.

第2話以降も、柄本明ら演技派俳優たちが演じる個性的な依頼人が登場し、ほかでは見たことのない東出の陰のある表情が複雑に変化する。探偵事務所所長・小暮に扮した松重豊がトボけた芝居で笑わせるのも連続ドラマならではの味わいだが、その中で犯罪と犯罪者、贖罪を多角的な視線で炙り出すあたりは、犯罪モノを得意とし、同じ薬丸岳の小説が原作の『友罪』でも犯罪者の闇に迫った瀬々監督の真骨頂。巨匠が叩きつける骨太のメッセージに、佐伯=東出の葛藤が観る者の心も試す!最後の最後まで目が釘づけになるに違いない。

構成/トライワークス

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