水瀬いのり「お芝居が大好き!」人気声優の原点とストイックな素顔
全世界で900万ダウンロードを記録した本格タクティクスRPGゲームを、「マクロス」シリーズの河森正治を総監督に迎えて映画化した『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』(6月14日公開)。劇場版オリジナルキャラクターであるカスミ役には、若手実力派声優の筆頭である水瀬いのりが抜てきされた。声優を志した原点や、「青春を感じる」という声優業の醍醐味について胸の内を明かしてもらった。
自分に自信の持てない女子高生カスミが、不思議な声に導かれて異世界であるバベル大陸へと召喚。魔法使いのリズ、凄腕ガンナーのエドガーら仲間と友情を築きながら、“本当の強さ”に目覚めていく姿を描く。
「『ノブナガ・ザ・フール』でご一緒した河森総監督と、またお会いすることができた」
人気ゲームに劇場版から初参加となった水瀬だが、製作陣のサポートのおかげで、思い切ってその世界に飛び込むことができたという。「アフレコの前には、『タガタメ』の世界に初めて触れる私のために、その世界観や主要キャラクターを説明する時間を設けてくださいました。事前に丁寧な打ち合わせをしていただいたことで、アフレコまでにいろいろな不安や疑問点を解消することができました」。河森総監督とは2014年放送のテレビアニメ「ノブナガ・ザ・フール」以来のタッグとなり、「当時私は高校生でした。まだわからないことだらけの時期にご一緒して、またこうしてお会いすることができました。河森総監督はとてもお若くて、エネルギッシュな方です。時を経て再会しても二度見するくらい、見た目が変わっていなくて(笑)。河森総監督からはいつも、作品への熱量を感じます」と信頼感もたっぷりだ。
演じたのは、自分に自信が持てないでいる女子高生のカスミ。「異世界についてなにも知らなかったカスミが成長していく物語。演じるうえでは、“無知さ”を大切にしていました。カスミにとっては、見るもの、聞くこと、感じること、すべてが初めてのことばかりです。監督からも『必要以上に、この世界について調べてこなくていいです』というお話があり、“なにも知らぬまま、新しい世界にいる”というのが、あるべき姿だと思いました。あとは一緒にお芝居をしてくださるキャストの方のセリフをしっかり受けて出ていこうと思っていました」と新鮮な反応を大切にしていくなかで、「カスミは思っていたよりずっと、強い女の子だなと思いました。引っ込み思案ではあるけれど、自分の譲れないものをしっかりと心の真ん中に持っていました」とキャラクターの魅力に惚れ込んだという。
「お芝居が大好き。私がこのお仕事を目指したのは、5、6歳の頃なんです」
キャラクターにもっとも共感したポイントは、「カスミには小さいころから好きなことがあるんです」とニッコリ。「私はお芝居が大好きで、自分ではないなにかに身を預けて、演じるのが楽しいと感じます」と心を寄せる。いまや人気、実力を兼ね備えた若手声優のトップランナーとなったが、声優・水瀬いのりの原点はどんなところにあるのだろうか?すると「私がこのお仕事を目指したのは、5、6歳の頃なんです」と明かす。
「最初にこのお仕事に興味を持ったのは、“キャラクターが好きだった”ことから始まっています。あるテレビアニメですごく好きなキャラクターがいて。あわよくばちょっと結婚したいという気持ちくらいになっていて(笑)。でもある日、そのアニメの劇場版を観に行って、パンフレットで声優さんたちがそのキャラクターについてインタビューに答えていたんです。両親に『なんでこの人たちは、キャラクターのことをこんなに知っているの?』と疑問を投げかけたら、それぞれのキャラクターは、この人たちが演じているんだと教えられて、すごくショックを受けて!私の恋は永遠にかなわないんだなと思いました」と“失恋”を味わったものの、立ち直りも早かった。
「一周まわって、すごくポジティブな考えになって、好きなキャラクターに出会うためには『私も声優になればいいんだ』と思ったんです。それからは雑誌を読むなど、声優さんについていろいろと調べたりして、『この役もこの人がやっているんだ!』と驚いたり、どんどん憧れの存在になっていきました」。それからは勉強と努力を重ね、数々の大役を手にしてきたが、「いつも“風邪を引きたくない”という思いでいっぱいです。声を使う仕事なので、鼻声になってしまったり、咳が出たり、声が枯れたりしてしまうと、どうしたらいいんだろうと…。現場で迷惑をかけないために、体調管理に対する責任感やプレッシャーが年々増えてきていますね。自分の身体ですが、“ご自愛”していこうと思います」と茶目っ気たっぷりに語りながらも、どこまでもストイックな姿勢をのぞかせる。
「アフレコ現場は、チームの一体感を生む場所。青春を感じています」
劇中でも、カスミは仲間との出会いによって成長していくが、水瀬も仲間と一緒に“ものづくり”に挑んでいると感じる瞬間は、声優業の醍醐味でもあるという。劇中の仲間のやり取りについては、「エドガーは『女に涙を流させない』とよく言うんですが、それに対してカスミがぶつかっていくシーンがあります。相手の言いたいこともわかるけど、自分の気持ちも正直にぶつけていく姿は“青春”だな!と思ってグッときました」と興奮気味にコメント。
本作のアフレコは「一日中、同じスタジオにみんなでこもっていて。今日の天気はどうだったんだろうって思うくらいです(笑)。でもキャストのみなさん、スタッフの皆さんも一丸となって、作品を作っているんだと強く感じていました」と熱のこもったものになった様子。「アフレコ現場って、チームの一体感を生む場所なんだなと日々感じています。役者はアフレコをしたら製作の皆さんに作品を預けますが、そこから完成までにはまだまだたくさんの作業があって。バケツリレーのようですよね。それぞれの役割のプロが一生懸命に自分のできることをやって、その結果として一つの作品ができあがるってすごいこと。そこにも私は青春を感じています」と充実感いっぱいの、輝くような笑顔を見せていた。
最後に仲間がテーマとなる映画にちなみ、友だちづくりの秘訣も…。「ご飯に行ったり、ゲームをして仲よくなったり。あとは温泉施設が好きなので、最初から裸の付き合いに突入してしまうことも多いです(笑)。それでも物怖じせずに付き合ってくれると、ものすごく仲よくなれますね」。
取材・文/成田 おり枝