山田孝之が“放送禁止のパイオニア”村西とおる役!Netflix配信『全裸監督』の現場を直撃
なんとも挑発的かつ刺激的なNetflixのオリジナルドラマ「全裸監督」が、8月8日(木)より全世界で独占配信される。主演は山田孝之で、演じるのは1980年代のバブル期に “AVの帝王”として君臨した村西とおる役だ。はやる気持ちを抑えつつ、昨年12月某日、川崎の体育館に立てられた昭和の哀愁漂うオープンセットに伺った。この日は、主演の山田、共演の満島真之介、玉山鉄二らメインキャストが顔を揃える撮影日だった。
原作は、本橋信宏のノンフィクション「全裸監督 村西とおる伝」で、前科7犯、借金50億、米国司法当局から懲役370年を求刑されたという破天荒な村西の半生をもとに描かれる。満島は、村西の相棒的存在の荒井トシ役を、玉山は村西が裏社会で成り上がるきっかけを作る出版社社長の川田研二役に扮する。総監督は、『百円の恋』(14)の武正晴で、『ニセコイ』(18)の河合勇人監督、『下衆の愛』(15)の内田英治監督も参加した。
まずは、昭和の歌舞伎町を再現した、路地裏のオープンセットに思わず見入ってしまう。「元祖ノーパン喫茶」、「トルコ深海魚」、女子大生アルバイトパブクラブ「キャンパスCITY」、高級デート喫茶「再会」など、バラエティに富んだ風俗の看板や、ド派手なネオンが並ぶ。年季の入った電柱や、道に落ちているタバコの吸い殻なども、独特の場末感を醸している。
この日撮影されたのは、のちに村西と共に社会の常識をもひっくり返すことになる佐原恵美が、初めて村西の事務所を訪れるというシーンだ。実は良家の令嬢である恵美が、「黒木香」という名前で、当時としては珍しかった女子大生としてAVに出演したことで、村西は窮地に立たされることになる。恵美役を演じたのは、映画『一週間フレンズ。』(17)や『世界でいちばん長い写真』(18)などの新鋭女優、森田望智だ。
村西の事務所も昭和感満載で、隅々まで作り込まれていた。ブラウン管テレビや、フロッピーディスクが入るワープロが置かれ、プロレス雑誌も昭和発行のものだった。まだ黎明期の村西が設けた事務所なので「見ないテレビをつけっぱなしにした人は罰金」「ガス代節約!!」「紙コップは洗って使う」といった、しみったれた内容の張り紙があちこちに貼られている。
撮影後、山田、満島、玉山、武監督の4人が囲み取材に応じてくれた。山田は、もともと村西の存在を知らなかったが、原作を読み「とてもおもしろいし、興味深い人生を送っている方」と圧倒されたそうだ。「これを映像化するとしたら、その表現方法は映画でもなかなか難しいものになると思いましたが、Netflixならできるかなと。かなり刺激的な作品になりそうだし、ぜひやりたいと思いました」とオファーを快諾した。
山田は「なによりも村西さんがまだ生きているということが、一番すごい。僕は撮影に入る前に村西さんと実際にお会いして、ずっと観察していたんですが、相手によって、また、話す内容によってしゃべり方をすごく変えられるから、お芝居を常にされているという印象がありました。いま71歳ですが、30代のパワフルでがむしゃらだった時期は本にも描かれているので、僕なりに村西さんを解釈して、演じようと思いました」。
武監督は年齢的に「ドンピシャな世代」と、前のめりに本作に参加した。「実は、学生時代にアダルトビデオの専門店でバイトをしていたこともあるので、すごく懐かしくて。僕は村西さんの一番マックスなころを知っていましたが、その後もすさまじい人生を送られていたんですね。“村西とおる”が本名じゃなかったことにも驚きました。僕も監督業をやっていますが、村西さんはすごくパワーのある先輩で、原作を読むと『まだまだ頑張らなきゃいけない』とかなり勇気づけられました。また、実際に御本人とお会いした時は、僕も感激しました!」。
満島も「山田さんが村西とおる役をやり、武監督が撮ると聞いて、なんておもしろそうなドラマなんだろうと思いました」と大乗り気で出演した。
「僕は平成元年生まれで、平成ってなんだったのだろう?とずっと考えていた時、この原作を読み、人と人との関わり方の密度が濃いなあと思いました。僕はそういう時代に憧れていたので、その熱量を世界に向けて示せるのであれば、未来も良い方向へ変わっていくんじゃないか?という希望も込めて、今回参加させていただきました。現場は毎日が楽しくて、ずっと高揚しています」。
AVの舞台裏を描く本作には、常にコンプライアンス問題が立ちはだかる。玉山も「村西さんの破天荒な人生は、当時のバラエティ番組で扱われたり、ドキュメンタリーになったりしました。でも、リアルな話なのに、なぜ地上波や映画などで、ドラマとして表現できないんだろうと、たぶん作り手の誰しもがそういうはがゆい想いを感じていたと思います」と述懐。
「本作のプロデューサーが『日本が誇れる輸出品の1つはアダルトビデオなんだ』と胸を張って言っていました。日本にはそういう裏の文化があるから、そういうメイドインジャパンのノンフィクションを、僕はもっと海外の方に知っていただきたいです。これからオリンピックや大阪万博も開催されるし、多様性をもった考え方が必要になってくるから、外国の方々にも観てもらえたらうれしいです」。
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エネルギッシュな俳優やスタッフ陣の心意気によって実現したドラマ「全裸監督」。折しも、令和という新時代に入ったこのタイミングに、昭和のバブル期から平成に大暴れした村西とおるという怪物が、いまを生きる私たちにどのようなカウンターパンチを食らわせてくれるのか?大いに期待したい。
取材・文/山崎 伸子