『ホットギミック』原作者・相原実貴が語る、映画版の魅力と“実写化”への想いとは?
「映画としておもしろい、そう思えたことがとても幸せです」。2000年代に「ベツコミ」で連載され、ちょっと大人向けの少女マンガとして話題を博した「ホットギミック」が、『溺れるナイフ』(17)などで強烈な才能を見せつけている山戸結希監督の手によって『ホットギミック ガールミーツボーイ』(6月28日公開)として映画化された。原作者の相原実貴は「原作をすごく素敵に抽出してくれていて、映像も綺麗。いい意味でヒリヒリしている感じがとても刺さりました」と、自身の作品が新たに生まれ変わったことに、この上なく幸せそうな表情を見せてくれた。
「もともとは“幼なじみのロミオとジュリエット”といった物語を描きたいと考えたのが始まりでした」と、相原はこの「ホットギミック」誕生の経緯を明かす。「ちょうどその頃、仕事場の近くに大きなマンションが建設されていて、それが大企業の社宅だということを聞いたのです。それと同時に、偉い人から順に上の階に住むとか、そういったちょっとドロドロした噂を聞いて妄想が膨らんでいきました」。今回の映画では、その“社宅”という要素がなくなり、臨海部に鎮座する巨大なマンションへと舞台が移る。「社宅という設定によって、説明の必要がないヒエラルキーが存在していたので、どう表現するのか興味がありました。映画を観たらコの字型で閉塞感がある大型マンションで、しっかりと“村っぽさ”が出ていましたね」と満足げに語る。
相原の生みだした作品は、現在も連載中の代表作「5時から9時まで」が石原さとみと山下智久の共演で「5→9 〜私に恋したお坊さん〜」として2015年にテレビドラマ化されているが、映画化は今回が初めて。「自分の名前が映画館のスクリーンに映しだされると思うとドキドキしました」と言う相原は、メガホンをとる山戸監督との出会いについて振り返る。どうやら数年前から企画が進められていた本作は、山戸監督からの強い希望によって実現したというのだ。
「監督が決まった時に山戸監督の作品を観て、とにかく人物をすごく美しく撮る監督なんだという印象を受けました。実際に本人に会ってみたら、下手に触ってはいけないガラスのような人だと感じました」。そして相原は、映画化にあたって山戸監督にすべてを一任したという。「漫画は漫画、映画は映画でメディアが全然違います。なので、私は山戸監督の視点で好きなように作って欲しい。映画バージョンの『ホットギミック』が観てみたいと思って、お任せすることにしました」。
乃木坂46の人気メンバーである堀未央奈がヒロインを演じ、人気急上昇中の3人の若手俳優がヒロインを取り巻く男性たちを演じるキャスティングは、原作者の目にどう映ったのか?原作を執筆した際には、それぞれの登場人物に具体的なモデルはいなかったと明かした相原は「堀さんは天下御免のアイドル。こんな可愛い方があんな地味な初の役を…」と謙虚に答える。また亮輝役の清水尋也と梓役の板垣瑞生については「キャスティングを聞いてから2人が出演されている作品を観たのですが、まだ色がそんなについていない感じだったので非常に楽しみになりました」とニッコリ。そして凌役の間宮については「別の映画で拝見したことがあって…」と、2017年に公開された『帝一の國』で間宮が演じた氷室ローランドという役柄の印象が強かったことを告白。「『え!?ローランドが兄!?』と驚きました(笑)」。
恋愛漫画の旗手として絶大な人気を集めている相原は、大の映画好きだという。「中学生ぐらいの時にテレビで古い映画を観ると、『自分だったらこう描くな』って妄想をしていました」と、子どもの頃から観ていた様々な映画やドラマから着想を得て、あらゆる恋愛の形を描き続けてきたのだという。その一方で、好きな映画のジャンルは意外にも「アクション映画」だという。「最近では『アベンジャーズ』シリーズがすごく好きで、いままでの実写化に多かったガッカリ感をすべて超えた感じ。恋愛映画はたくさん観すぎたから、観なくていいやって思っちゃうことがありますね(笑)」。また最近では「ゲーム・オブ・スローンズ」に熱狂したとのことだ。
ここ数年、日本映画の一つのトレンドとして少女漫画の実写化が相次いでいる。それについては少女漫画界を担う1人の漫画家として「とてもありがたいことだと思っています」と、またしても謙虚な人柄をのぞかせる相原。「少女漫画は恋愛しかやっていないと思って、手に取ってくださらない人が多い。映画をきっかけにして、笑える部分があることや、別のおもしろさを知ってもらえるとうれしいです」。
また本作の公開に合わせて、6月13日に発売された「ベツコミ」と6月24日に発売される「Cheese!」では「ホットギミック」の新作読み切りが掲載され、亮輝の視点と凌の視点から、それぞれのキャラクターの紹介を兼ねた“大学生編”が描かれるという。原作を読んでいた人もそうでない人も、また映画を観る前でも観た後でも、「ホットギミック」という物語をより深く知ることができる機会となるだろう。
取材・文/久保田 和馬