放送禁止スレスレ「全裸監督」の舞台裏を山田孝之、満島真之介、玉山鉄二が告白
山田孝之が“放送禁止のパイオニア”、村西とおるを演じる破天荒なNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」が、8月8日より全世界で独占配信され話題を呼んでいる。山田がブリーフ一丁でカメラを片手にしたポスタービジュアルを見た時点で度肝を抜かれたが、共演の満島真之介、玉山鉄二と意気投合。「撮影が楽しくて終わってほしくなかった」と口を揃える3人に、エネルギッシュな現場での撮影秘話を聞いた。
原作は、本橋信宏のノンフィクション「全裸監督 村西とおる伝」。前科7犯、借金50億、米国司法当局から懲役370年を求刑されたというモデルとなった村西の経歴は聞くだけで、思わずのけぞってしまう。満島は、村西の相棒的存在の荒井トシに、玉山は村西が裏社会で成り上がるきっかけを作る出版社社長の川田研二に扮する。総監督は、『百円の恋』(14)の武正晴で、『ニセコイ』(18)の河合勇人監督、『下衆の愛』(15)の内田英治監督も参加した。
「打ち上げで話す村西さんを見て、山田さんだ!と思ってしまいました」(満島)
――山田さんは、村西役にどのようにアプローチをしていきましたか?
山田孝之(以下、山田)「撮影に入る前に、村西さんご本人にお会いしました。村西さんのドキュメンタリー映画のトークイベントがあり、そのあと皆で食事をする機会があったので、村西さんをずっと観察していたんです。村西さんはカメラを回している時と、普通の会話をしている時の差が大きくて、話す相手によって“スイッチを切り替える人”という印象を受けたので、そこを意識しました」。
満島真之介(以下、満島)「本作の打ち上げに村西さんが来てくださって、すごく盛り上がったんです。村西さんが『おまたせしました!』と話し始めたんですが、あれ?山田さんのマネをしてる!と錯覚しちゃって。僕たちは、何か月も山田さんが演じる村西を見てきたので、混乱しちゃいました」
玉山鉄二(以下、玉山)「似てました!本当に」
山田「僕自身もあれ?と思って、気持ち悪くなっちゃって。自分がずっと演じてきたので、不思議な感じがしました」
満島「それくらい似ていたんです。顔や年齢はまったく違うのに。なんだか異様な空気になりましたが、打ち上げは大いに盛り上がりました」
――トシ役の満島さんはどんなふうにアプローチして演じましたか?
満島「僕や玉山さんの役は、何人かモデルの方がいても、ご本人の人物像は見えなかったので、村西さんを真ん中にして、僕たちの役が両極にどこまで広がれるかと考えながら演じました」
――トシのヘアスタイルもインパクト大でした。
満島「トシをステレオタイプのチンピラにはしたくなくて、愛情深くてエネルギッシュな男にしたいと思い、パンチパーマでも、アフロに近い感じにしました。山田さんと玉山さんがいてくれたので、自分も伸び伸びできたことが大きかったです」
――玉山さんが演じた川田も、村西やトシと固い絆で結ばれる役どころですね。
玉山「僕の役は、出版社の社長です。世間のレールから外れた人生を送っていたなか、村西という光と出会う。“エロ”を通して生きる意味を知って、そこから村西軍団を率いていく。成長物語ですが、成金感が見えていけばいいなと思って演じました」
満島「村西もトシも川田も、隣に誰かタッグを組める人が欲しいという時に、出会った感じですよね。それがなかったら、あそこまでの関係にはなっていなかった気がします」
「前貼りを画面で見せるということが珍しいです」(山田)
――前貼りは幅3.5cmとか、精液の代わりに生卵などを使って撮影するなど、AV撮影の舞台裏が見えた点がとても興味深かったです。
山田「そもそも前貼りを画面で見せるということがなかなかないですよね。本来、現場で陰部を隠すわけだから、前貼り自体が貼ってあることを映らないようにしなければいけないので」
満島「あの時代からいろいろなことが切り替わったというか、ああいうふうに工夫して撮影をしたのは、村西さんが初めてだったようです。精液を卵白でいくか、ヨーグルトでやるかと、毎日試行錯誤したと思います」
玉山「当時は、本番はダメだったし」
満島「ドラマを観る一般の人たちというか、映像制作に関わったことのない人たちがどれくらいそのノウハウを知っているかはわからないけど、通常、その裏側は見せないので」
山田「でも、実はいまの映画撮影と変わらないところもあります。僕たちも絡みのシーンがあったら、いまでも前貼りはするので」
――今回、恵美、のちの黒木香を演じた森田望智さんの女優魂には目を見張りました。
山田「すごかったですね。最初は緊張していたんですが、覚悟は見えました。撮影の見学に来た時は、僕と目を合わせなかったし、撮影の邪魔をしちゃいけないという感じで、陰にそっといたんです。僕が通ったらささっと離れるし。でも村西と出会い、大胆な撮影シーンで爆発したあとは本当に変わりました」
玉山「確かに、最初は『私、頑張ります!』という感じじゃなかったよね」
山田「そうそう。でも、絡みの撮影以降は、怖かったです。『おはようございます』と挨拶したら、こちらが思っている以上の笑顔を返してくれて。怖いなと思いました(笑)」
玉山「初めてご一緒しましたが、本当にすごい芝居をしてました。本当に黒木香にしか見えなかったです。別にモノマネをしているわけでもないけど、一体なんなんだろう、この子は!と。バチッと役にハマっていて、びっくりしました」
満島「そうですよね。化けるというのは、こういうことかと。でも、現場が終わって、この前、お会いした時もまだ黒木香でした。ヤバイです(笑)」
玉山「すごく才能がありますね」
――黒木香さんといえば、立派なワキ毛がトレードマークですが、実際に森田さんが演じる姿を見ていかがでしたか?
満島「初めて見たのはまさに本番の時。おお!と思いました(笑)。僕や玉山さん、(柄本)時生とかは、面と向かっての芝居はなかったのですが、山田さんは直に芝居をしているから、一緒に空気を作っていたし、一番、彼女のことを受け止めていました。その愛を受け、森田さんがどんどん“獣”になっていったんです」
玉山「いい意味で、引きました。すごかったです」
満島「そこは映像にもちゃんと映っています。でも、ここまでやっていいのか?と心配しましたよ」
山田「彼女の演技に、本当に食われました(苦笑)。一緒に撮影シーンをやっていてめちゃくちゃ疲れました」
玉山「朝から晩までずっとやってたよね?」
山田「10時間くらいやっていました(苦笑)」
満島「あの日はもう、裸と絡みを見すぎて、エロとかどうでも良くなってました」
玉山「でも、そういうふうに化けられる作品と出会えることってなかなかないから、きっと彼女にとっても良かったでしょうね」
「日本文化で、エロスをどこまで出していけるか?」(玉山)
――村西さんのパワフルでディープな生き方について、どんな印象を持ちましたか?
山田「僕は村西とおるという人について、誰もやったことがないオリジナリティ溢れるものを作ろうとした人、という印象が強いです。でも、時代が追いついてなかったというか、村西さんが早すぎた。村西さんはすごく商才のある人で、借金をしてまでも、自分をずっと信じ続け、行動に移した点がすごく魅力的だなと思います」
満島「ああいう大人がいると、若者は触発されますよ。いまは村西さんのような人はいなくなったし、皆が自分をコントロールして生きている。僕は村西とおるさんという名前は知っているけど、詳しくは知らなかった世代です。でも上の世代の人たちに聞くと、やっぱり村西さんの生き方は衝撃的だったと」
山田「でも、今回『全裸監督』をやってみて、キャストもスタッフも皆が、村西さんのようにやってみたいという思いがあるんだと痛感しました」
――皆さんが、村西さんのようにバイタリティや情熱を秘めているということですか?
満島「そうですね。僕も確かにそう思いました」
山田「もちろん、村西さんほどドバーッとは欲求を出さないけど、武監督も村西さんと変わらない熱い想いを持っていると感じました」
満島「現場には、もの作りがしたい、映像を作りたいという強い気持ちのある人たちが集まっているからですね」
玉山「エロスに対してどこまで出していいんだろう?と考えることは、誰にでもあると思います。今回森田さんが演じた恵美は、性への欲望に対して自分は異常なんじゃないかと考え、自分がこうなったのは誰のせいか?と悩みます。でも、少なからずそういう人は普通にいると思います。ただ、日本の文化的に恥じらいが先に立ってしまうから、そういうことを表に出さないほうがモテるんだんろうなと。特に女子はそう思ってしまうような気がします」
「撮影が終わることが嫌だと心から思ったのは、この作品が初めて」(山田)
――映像作品におけるコンプライアンスが厳しくなった昨今ですが、今回の『全裸監督』はかなり攻めた快作に仕上がりました。
山田「僕は、これでいいんだ!という感じです。テレビドラマとは違ってNetflix作品なので観たい人が観るので。自分でチャンネルを選んで観ていただく作品なので、あるべき姿だと僕は思います」
玉山「近年はコンプライアンスの影響で自主規制が多くて、俺たち役者も正直ちょっと窮屈さを感じていました。でも、俺たちだけではなく、視聴者もそう感じている人は多いと思います。
「黒船」と呼ばれたNetflixが日本にやってきたことをきっかけに、地上波にしても、映画にしても、こういう企画を脅威だと思ってもらえればいいなあとも思います。いろんな形でお互いに業界同士で高め合っていくことで、日本のエンタテインメントがもっとおもしろく変わっていけばいいですね」
満島「きっと役者やスタッフの皆は、おもしろい映像作品に関わりたいという夢を持って、この世界に入ってきたはずなんです。でも、挑戦的な作品が出せない時代になってきています。今回は全員が、こういうのを求めていたよね!と感じられた作品になりました。だから、いい形でそういう情熱が連鎖していけばいいなあと思います。今回は、新しい次の世代にもつながっていくものができたと思っているので、自分自身もワクワクしています」
――実際にその高揚感は、画面からも溢れている気がしますね。
満島「各々のキャラクターが立っていたし、なにをやっても皆が反応し、すばらしいチームでした」
山田「なにが起こってもすべてに対応できるようになっていたので、やりづらいとか思ったことは、まったくなかったです」
玉山「後半なんてリハーサルだけやって、テスト撮影がない時もけっこうありました。あれ、本番だったの?と、やっていて気づいたこともあったし(笑)」
満島「だからといって、演じるキャラクターから外れていかないんです。はみ出ないギリギリのラインをお互いに見極め、皆がキャラクターを広げていったので、めちゃくちゃ楽しかったです」
――すばらしいチームだからこそ、いい作品に仕上がったということですね。
満島「そういうチームに出会えると、生きる毎日が変わります」
山田「全キャスト、スタッフも全員仲が良かったです。だからスケジュールを見て、『ああ、もう終わっちゃうんだ。本当に嫌だな』と思いました。そんなことを心から思ったのはこの作品が初めてです」
玉山「撮影が終わっても、電話くださいよ!とか言ってましたから(笑)」。
満島「僕もめちゃくちゃ2人に会えるのが楽しみでした。さっき、皆でエレベーターに乗ったんですが、久しぶりに会えたのがうれしくて。エレベーター止まっちゃえばいいのにと思いました」
山田「アハハ」
彼らのクロストークを聞いただけで、作品への期待度が数倍アップする。これぞ、昭和の伝説を令和に届けるイチオシの1作で、観ればカウンターパンチを浴びること間違いナシ。Netflixオリジナルシリーズということで、世界での反響も大いに楽しみだ。
取材・文/山崎 伸子