草なぎ剛、『台風家族』撮影現場で吐露していた特別な想い「メモリアルな作品になる」<写真23点>
公開が延期されていた草なぎ剛の主演映画『台風家族』が、9月6日(金)から26日(木)まで3週間限定で劇場公開されることが決定。映画のお披露目を待ちわびていた人々からも喜びの声が上がっている。監督、脚本を担った市井昌秀が、 “両親への想い”をヒントに12年もの間あたためてきた本作。2018年6月下旬から7月にかけて、厳しい真夏の暑さのなか行われた撮影現場では、草なぎが市井監督の情熱を受け取り、“クズ一家のダメ長男”というキャラクターに全身全霊を注いでいた。そこで公開を記念して、Movie Walkerが潜入した撮影現場レポートをお届け。現場では、草なぎが「僕にとってもメモリアルな作品になるような気がしている」と本作にかける想いを吐露していた。
銀行で2000万円を強盗したまま行方がわからなくなっていた両親の“見せかけ”の葬儀をするために、10年ぶりに集まってきた鈴木家の4人のきょうだい。生まれ育った地元を離れていたきょうだいが帰省し、久しぶりに再会したことで巻き起こる珍騒動を描く。
「新鮮さ、生っぽさを大事に」(市井監督)
記者が撮影現場を訪れたのは、2018年7月。きょうだいたちが実家に集まるシーンが撮影された、栃木県のとある一軒家だ。両親が失踪してから何年も放置されていた実家という設定だけあって、障子は破れ、年季の入った扇風機、食器、タンスが並ぶなど、昭和の香りが漂う。両親の葬儀を行おうとするきょうだいたちだったが、長男の小鉄役の草なぎが喪服の一方、長女の麗奈役のMEGUMIはセクシーなキャミソール、弟の千尋役の中村倫也はUFOのイラストが描かれた“ゆるかわ”な柄のタンクトップ姿。一体どんな関係性で、どんなやり取りが始まるのかと期待が高まるなか、撮影がスタートした。
長男らしく振る舞い、その場を仕切ろうとする小鉄。しかし遺産を多くもらおうする小鉄の企みが明らかとなり、攻め立てる麗奈。ふらりと現れ、兄や姉への複雑な心情を爆発させる千尋。キャスト陣が言葉の応酬をエスカレートさせ、胸ぐらをつかんだり、にらみ合ったりしながら、きょうだいらしく遠慮のない会話劇を見事に繰り広げるなど、その迫力にぐいぐいと惹きつけられた。また市井監督が粘り強く、細かく演出をつけていたのも印象的。テイクを繰り返した際には「新鮮さ、生っぽさを大事に」との言葉をキャスト陣に投げかけていた。
「僕にとってもメモリアルな作品になるような気がしています」(草なぎ)
真夏の暑さのなか、汗をかきながら、きょうだいたちの嫉妬や後悔、そして愛情を体現していたキャスト陣。草なぎは「撮影中はクーラーをつけることもできないので、蒸し風呂のなかにいるよう。リアルな汗をかいています」と大きな笑顔。「そのなかで市井監督の演出が延々と続きます(笑)。やはり、監督のオリジナル脚本ですからね。監督の情熱がひしひしと伝わるし、僕もすごく楽しんでやっています」と充実感をにじませつつ、「自分より年下の監督とご一緒して、遺産相続の話をするきょうだいの長男役とあって、僕もそういう年齢になってきたんだなって。僕にとってもメモリアルな作品になるような気がしています」とワクワクしていることを告白。
市井監督は「12年前に思いついたアイデア」と振り返りながら、「ここ数年はオリジナルの作品をやりたいと思っていて、原作もののお話をいただいても断っていたんです。結果として昨年は収入がなくなってしまって…。昼はポスティングの仕事をして、夜に脚本を書いていました。なので、いまこうやって現場にいること自体がすごく幸せです」と喜びを噛みしめていた。
「いつも以上に僕自身が出ているんじゃないかな」(草なぎ)
「メモリアルな作品になる気がしている」という草なぎだが、その理由のひとつは“自然体”や“その瞬間に出た感情”をとことん追求する市井監督のこだわりにある様子。
脚本を読んで「登場人物たちが必死に生きている様が、すごくおもしろいと思った」という草なぎは、「リアルな家族の絆、きょうだいの絆が描かれている。演じるほうも必死ですよ!熱い僕が見られると思います」とニッコリ。「監督は『草なぎさんの小鉄が見たい』と言うんです」と役に自身を投影することを望まれているといい、「演技というのは、『ここのセリフはもうちょっと怒って言ってみよう』とか、『悲しい感じにしてみよう』などいろいろと考えて作っていく部分もあると思うんですが、監督はそういうことを好まない。あくまでも『自然に』と。ものすごく難しくて悩んでもいますが、それこそが、僕にとって“演じる”ということにおいて、次の段階に進むためのテーマになってくるのではないか思っていて」と新境地へのチャレンジでもあるといい、「恥ずかしながら、いつも以上に僕自身が出ているんじゃないかな」と語る。
市井監督は「そうですね。草なぎさんの小鉄が見たいので、心が動く瞬間が見たいし、その存在感が見たい。そして新しい草なぎさんも見たいですね」と期待。草なぎは「みんなそうですよね。みんなが“いまの自分”を出している。それぞれの必死さが伝わって、それが愛おしくもあって。その必死な姿に、こっちも緊張してきちゃったりして!やっぱり緊張感ってとても大事で。張り詰めたシーンも多いですからね。監督が追い込んでいるのかも」とニヤリ。役者陣の必死さが、それぞれのキャラクターの生き様として結実し、人間臭いドラマが繰り広げられる。実力派俳優たちが積み重ねた瞬間が、映画となってお目見えする日がいまから楽しみだ。
取材・文/成田 おり枝