『洋菓子店コアンドル』の蒼井優は史上最も気の強いヒロイン?

インタビュー

『洋菓子店コアンドル』の蒼井優は史上最も気の強いヒロイン?

ふんわりと泡立った真っ白な生クリーム、奥深い味わいのビターなチョコレート、爽やかなベリーの酸味、それらを包み込む香ばしいパイ生地。老若男女に愛されるスイーツの世界を舞台にした映画『洋菓子店コアンドル』(2月11日公開)は、伝説のパティシエと上京したばかりの女性見習い店員との交流を中心に、スイーツの甘い香りに引き寄せられるように出会った人々が様々なドラマを繰り広げる。今回、本作で不器用なヒロインを演じた蒼井優と、メガホンをとった深川栄洋監督にインタビューを敢行。作品に込めた思いや役作りでの苦労話など、撮影中の様子を振り返ってもらった。

8年前にケーキ作りをやめてしまった十村(江口洋介)は、依子(戸田恵子)が営む洋菓子店“パティスリー・コアンドル”で、鹿児島弁丸出しのなつめ(蒼井優)と出会う。一人前のパティシエになるべく奮闘するなつめ。十村はそんな彼女を厳しくも温かな眼差しで見守り続ける。そんなある日、大事な晩餐会を前に依子が事故で大怪我を負ってしまう。

監督の深川栄洋は、『60歳のラブレター』(09)や『白夜行』(公開中)など作品の途切れない人気ぶり。本作では、監督としてだけでなく作品の企画段階から参加し、脚本も手がけた。作品の設定やキャラクターの性格づけには、監督自身の蒼井優に対する印象が強く影響したようだ。「もともと蒼井さんに抱いていたイメージは、とても上手で器用な人なのかなと思っていたのですが、実際は良い意味で不器用で、体温を感じさせる人。そんな彼女の無鉄砲な要素のアクセルをもうちょっと踏みこんでみたくなりました」。

そんな深川監督を「すごく優しい目で人を見ている人」と話す蒼井は、監督の熱い思いに応えるような演技で、一人前のパティシエになろうと奮闘するヒロインのなつめを熱演している。なつめはとにかく気が強い。蒼井優が演じたキャラクターの中で史上最もパワフルな女性と言っても良いだろう。役作りについては、「今回はあえて美化することをやめてみようと思いました」と話す。「子供がそのまま大きくなってしまったような子で、相手が誰であろうが言いたいことははっきり言う。見ている人に不快感を抱かせないために、どう演じたら良いのだろうと考えました。でも、『あの深川監督がこの本を書いたということを信じよう』と、いただいた台本のまま演じてみようと思いました。実験であり挑戦でした」。

蒼井優といえば、『フラガール』(06)での北関東訛りなど、彼女にとっての方言は得意の武器のような印象もあるが、実際は意外にも方言に苦手意識を持っているという。「もともと福岡出身なので、この仕事を始めたばかりの頃は標準語も話せなかったんです。やっと慣れてきた時に地方出身の役が増えてきた(笑)。今回の鹿児島弁では、感情が前に出るとイントネーションがごちゃごちゃになってしまったりして難しかったです」。

鹿児島弁のほかにも、パティシエという職人を演じるに当たり、生クリーム絞りの練習などお菓子作りを猛特訓したという。そんな彼女の頑張りについて深川監督は「蒼井さんがそんなふうに水面下で努力していたとは全く知りませんでした。実際の撮影では、僕が考えていたことを全部表情や動きで表現してくれた。口を少し開けていたり、目をパチクリさせたり。こちらが驚くような色々な表情を見せてくれて、いつも『面白いなあ』と思って見ていました」。

本作のもう1つの魅力は、見る者にも香りが届きそうな目にも鮮やかなスイーツの数々。深川監督は「パティシエの作るケーキもそうですが、職人さんが1つ1つ精魂込めて作るものは、人に何かを感じさせる。それは映画作りも同じだと思います。技術と愛情をかけた職人の思いを感じさせることできたら良いなと思いました」と本作に込めた思いを語ってくれた。

一方の蒼井は、この映画を通してケーキへの意識が変わったと話す。「その小さい世界に至るまでの道のりや、見えない努力の積み重ねが奇跡のように感じられるようになりました。この映画は映像がとっても綺麗ですが、それは深川監督が見ている世界。映画に出てくる人たちは不器用な人たちばかりだけど、人々に対する監督の愛情を感じられると思います」と蒼井が話すと、深川監督は「ありがとうございます」と照れくさそうに微笑みを浮かべた。

苦い現実に心が折れそうになった心を、甘い香りで優しく包み込んでくれるスイーツのような映画『洋菓子店コアンドル』。人の心の温かみにあふれた物語を是非劇場で味わってほしい。【取材・文/鈴木菜保美】

蒼井優:ヘアメイク/赤松絵利(esper.)、スタイリスト/岡本純子
深川栄洋:ヘアメイク/大久保まりい(esper.)
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