SW監督が「007」とキャプテン・アメリカを主演にミステリー映画を撮った!
現在開催中のトロント国際映画祭、最初の週末には期待作が数多くプレミア上映される。その中でも屈指のチケット入手困難(まさにプレミア・チケット)だったのが、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)を手掛けたライアン・ジョンソン監督の『Knives Out(原題)』。突然自死を遂げた大富豪(クリストファー・プラマー)の遺産を巡り集まる曲者揃いの家族(クリス・エヴァンス、ジェイミー・リー・カーティス、トニ・コレット、マイケル・シャノン、「13の理由」のキャサリン・ラングフォードなど)と、事件の匂いを嗅ぎつけた刑事(ダニエル・クレイグ)と、刑事の相棒として事件を追う介護看護師(『ブレードランナー 2049』のアナ・デ・アルマス)が繰り広げる推理劇は、緊迫しながらも爆笑に次ぐ爆笑。特に、クールなジェームス・ボンドのイメージを封印し、まじめな顔でとぼけたジョークを連発するクレイグに、満場の観客も惜しみのない拍手を送っていた。
上映前にジョンソン監督は、「プレミアに来てくれてどうもありがとう。トロントの観客は世界一だよ!そしてこの映画の結末は感謝祭(11月末)に公開されるまで、絶対にバラさないでね。ネタバレ禁止だよ!」と挨拶した上で、上映後のQ&Aでは「僕は(アルフレッド・)ヒッチコックが提唱したように、犯人が誰かということがミステリー映画の最大の興味にはならないという意見に賛同している。だから、「刑事コロンボ」のような刑事が出てきて、最初は推理劇で犯人が明かされてからスリラーとなるスタイルの映画を撮りたいと思ったんだ」と明かした。見事なキャラクターチェンジを見せたクレイグは「役柄のすべては脚本に書かれていた通りで、アクセントの訓練は長くやったけれど、本当に脚本にある通り演じたまでだよ」と説明。看護師役のアルマスも、「私が演じたマルタ役についても脚本にしっかりと書き込まれていたので、マルタの性格や彼女が大切にしているものなど全て理解することができたわ」と、ジョンソン監督によるオリジナル脚本を絶賛した。脚本は何度も推敲を重ね、最終稿はこの豪華キャストが全員揃って読み合わせを行った後にできあがったそうだ。ジョンソン監督は、「脚本は、全ての要素を入れながらも簡潔であり、その上で改稿の轍が残るように何度も書き直したよ。セットに入ってからも、キャストと話し合って演じるキャラクターの行動原理が腑に落ちないようだったら書き直して演じやすくなるように変えていった。演じる彼らが理解できなければ、観客を納得させることなんてできないからね」と、脚本の重要性を語った。
豪華キャストによる群像劇に、謎解きのおもしろさも含んだ本作は、トロント国際映画祭の観客をしっかり魅了。ジョンソン監督の手堅い演出力と、バランス感覚に優れた脚本を楽しむ作品となっている。アメリカでは11月27日の感謝祭の週末に公開、日本での公開は2020年春を予定している。
文/平井伊都子