三浦春馬、ドラッグクイーンから父親役、素朴な青年役で魅せた演技力と歌唱力
4歳で劇団に入り、子役からキャリアを重ねてきた人気スター、三浦春馬。今年で29歳となり、主演ドラマ「TWO WEEKS」では父親役を演じた。そんな三浦の最新主演映画は、伊坂幸太郎の同名小説×斉藤和義の音楽という心地良いコラボレーションで贈る『アイネクライネナハトムジーク』(公開中)。ごく普通の青年役を引き算の演技で演じ、何気ない幸せや出会いの奇跡を紡ぎ上げた三浦に、本作の撮影裏話や、俳優としてのいまについて話を聞いた。
原作は伊坂幸太郎初にして唯一の恋愛小説集で、いくつかのラブストーリーや家族のドラマが交錯し、最後にはいろいろな人の人生を祝福できる懐の深い物語となっている。伊坂直々のラブコールを受け、『愛がなんだ』(19)の今泉力哉監督がメガホンをとった。
「多部さんとは、馴れ合いじゃなく、緊張感を持ちながら現場にいられた」
三浦が演じたのは、劇的な出会いを夢見る、平凡な草食系の青年、佐藤。性格はいいのに彼女はいなくて、常に子持ちの親友、一真(矢本悠馬)とつるんでいる。三浦は「僕も佐藤のようにわりと穏やかなほうだし、人の話を最後まで聞くタイプだと思うので、すごく共感できました」と、共通点を見出しながら役にアプローチしていったことを明かした。「普遍性のなかにも、キャラクター独自の癖や行動パターンがあるはずだと思ったので、今泉監督と相談しながら、少しずつ役を作り上げていく過程が楽しかったです」。
佐藤が偶然出会い、付き合うことになる女性、紗季役を、三浦とは映画『君に届け』(10)、ドラマ「僕のいた時間」に続いて3度目の恋人役となる多部未華子が演じた。
「多部さんは『4年に一度のオリンピックのような関係』とおっしゃっていました(笑)。また彼女と共演できてうれしいし、とても頼りになる方だと思っています。でも、20歳と24歳という、過去の自分の演技や現場での立ち居振る舞いを知られているからこそ、いまの自分が多部さんにどう映り、ちゃんと充実感を共有できているだろうか?と、考えてしまって。俳優としてだけではなく、社会人としての見え方もそうですが、そういう意味では、馴れ合いじゃなく、緊張感を持ちながら現場にいられたんじゃないかなと思っています」。
特に印象的だったのは、クライマックスで佐藤と紗季が気持ちをぶつけ合うシーンだったが、そこでは今泉監督から絶妙な演出が入ったそうだ。「僕はあのシーンに懸けたモチベーションがすごく高かったのですが、本番を2回くらいやったあとで監督が僕のところへやってきて、『もう少し相手の芝居を使ってあげてください』と言われたんです」。
三浦はそこで初めて、自分の芝居だけに入り込みすぎていたことに気づいた。「それはきっと『佐藤の言葉が、彼女にちゃんと響いているのかを、相手の表情を見て感じてください』という意味だったのかなと。カメラは片方しか撮っていなかったけど、その都度、お互いの表情が微妙に変わる。僕はそういうリアルな間合いを作ることを、忘れていたんです。その時、自分はなんてことをしていたんだと反省し、監督から本当にいい言葉をいただけたとも思いました。その結果、すごく達成感のあるワンカットが撮れましたが、あれは自分1人では出せなかったシーンでした」。
「主題歌を歌ったことで、可能性を広げてもらった」
端正なマスクに高身長という、容姿に恵まれた三浦だけに、多部と演じた青春ラブストーリー『君に届け』での花を背負ったキラキラ男子や、「進撃の巨人」シリーズでの葛藤するヒーロー役は文句なしにハマるが、佐藤のようなどこまでも平凡な男にも成り切れる点も頼もしい。さらに近年は、舞台「キンキーブーツ」のドラッグクイーン役で既存のイメージを打破し、新境地を開拓した。三浦にとっては、佐藤のような役と、「キンキーブーツ」のような役とでは、どちらのほうが難易度が高いのか?
「それぞれに難しさはあると思います。『キンキーブーツ』のローラ役の場合、キャラクターを演じるまでのプロセスが長くて、いまでも完成形にはほど遠いと思っています。ミュージカルだと歌も入ってくるから、歌なしでローラ役を語ることはできないかもしれません。今回の佐藤役では、短期間で集中して作らなければいけなかったけど、普遍性のある役をいろんな視点からを見ていく楽しさもすごく感じたので、どちらがやりやすいとは言えないかなと」。
歌といえば、「TWO WEEKS」では「Fight for your heart」で主題歌も担当した三浦。「やってみたらおもしろかったです。楽曲を歌うにあたり、いままでミュージカルで経験させてもらった歌い方とはまったく違うアプローチ方法を教えてもらえたので、その違いを改めて知って、すごくいい経験になりました。その方法は、今後ミュージカルに活かせそうで、まさに可能性を広げてもらった気がします。また、主題歌の反響も徐々に届いてきているので、とても励みになります」。
「いまのほうが、俳優の楽しみ方がわかってきた感じです」
7歳の時、NHK朝の連続テレビ小説「あぐり」で子役デビューした三浦の芸歴はすでに20年を超える。アラサーを迎え、プライベートや仕事に対する向き合い方は変わってきたのだろうか。
「プライベートでは、以前よりもフットワークが軽くなり、すごく社交的になったと思います。昔は飲みにいくメンバーが決まっていましたが、いまは同職だけじゃなく、他業種の人たちともどんどん会っていきたいですし、いろいろな人の話を聞きたいとも思っているので」。
仕事面でも、非常に順風満帆な印象を受ける。「若いころはオーバーワークで、逃げだしたくなったり、途中で投げだしたくなったりした時もありました。でもそれは、ただ単に休みたいという甘えだったのかなと。いまも忙しい時は忙しいのですが、もう30歳になりますから、自分が辛い環境にならない術を学べてきた気がします。自分なりにいろいろと失敗もしてきているので、そうならない仕事のやり方がわかってきたのかもしれない。きっとこの年齢になると皆さんがそうだと思うから、あまり大きなことは言えないのですが」。
また、以前よりも仕事へのやりがいや情熱は増してきているそうだ。「例えば役作りにしても、自分がどうすれば楽しめて高揚できるのかを、だんだんわかってきたなと感じています。10代、20代前半は若さというエネルギーや瞬発力だけで、ただがむしゃらに役と向き合っていました。きっと子役としてやってきた、ある種の自負みたいなものがあったんだと思いますが、それがいかに脆弱なものだったかもわかりましたし。役についても、若いころは論理立てて構築することができず、感覚や好き嫌いだけで、台詞を言っていたような気がします。でも、経験値が増えていくと、それに比例して演技面での選択肢も増えていく。だから、いまのほうが楽しいですし、すごくおもしろいです」。
取材・文/山崎 伸子