「夢が叶った作品」香港映画界の名匠が初めて挑む、アニメ映画が日本上陸!

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「夢が叶った作品」香港映画界の名匠が初めて挑む、アニメ映画が日本上陸!

現在開催中の第32回東京国際映画祭で30日、ワールド・フォーカス部門に選出されているアニメーション映画『チェリー・レイン7番地』の上映が行われ、上映後のQ&Aに本作で初めてアニメーションに挑んだ香港映画界の名匠ヨン・ファン監督が登壇。本作を手掛けたきっかけなどを語り、観客からの質問に答えた。

先日行われた第76回ヴェネチア国際映画祭で脚本賞を受賞した本作は、反英デモが広がりを見せる1967年の香港を舞台に、英語教師のバイトで通う家の少女と、その母のそれぞれに特別な感情を抱くようになる大学生の青年の姿を甘美な映像で描きだす。シルヴィア・チャン、ヴィッキー・チャオら香港を代表する実力派俳優たちが声の出演を果たしている。

宮沢りえが主演を務めた『華の愛 遊園驚夢』(01)以来、18年ぶりの東京国際映画祭に参加となったファン監督は観客と一緒に作品を鑑賞。舞台に登壇すると、「今日はこのようなすばらしい劇場の大きなスクリーンで私の映画を観られたことにとても感謝しています」と喜びを爆発。

自伝的な要素が込められた本作について「時代設定の1967年当時、私は20歳。主役の男性よりも少し若いんです。実は半自伝的な作品ではありますが、劇中に登場する母親も少女も隣人もネコにいたるまで、すべて自分を投影しています。ある意味で精神分裂スリラーのような作品ですね(笑)」と茶目っ気たっぷりに語ると、「私は1964年に台湾から香港に渡り、活気にあふれた香港の街に自由を感じ、幸せな気持ちになりました。いつかこの1967年という時代を映画化したいと思っていたので、7年かけて作り上げたこの映画は、私の夢が叶った作品です」と万感の想いをあらわにした。

そして初めてアニメーション作品に挑んだことについては「やったことのないことにチャレンジするのがすごく好きなんです」と明かし、「アニメーションは普段あまり観ないので、私にはまったく新しい世界。写真よりも絵画のほうが人の想像力をかき立ててくれるし、時代を超えるものになると思っているので、アニメーションが唯一、私の今回語りたかったものを届ける手段だと思ったのです」と告白。「悲しみや孤独感を表現した作品ですが、私のほかの作品と違ってハッピーエンドで誰も死なない作品です」とにこやかに語った。

続く質疑応答では、ほかのアニメーション作品とは異なりキャラクターや背景がゆっくりとした動きをしていることについて質問が。その理由として「言葉や映像や音楽に集中していただきたいし、1967年はいまよりも人々の心も動きもゆったりしたエレガントなものだった」と明かすファン監督。技術的な面でも1秒24フレームや12フレーム、7フレーム、さらには影絵のような静止画も駆使したとのこと。

「アニメーターには普通じゃないことをいろいろ要求しましたが、そのおかげで新しいものが生まれたと思います」と自信をのぞかせると、最後に「日本の映画業界は世界でも有数ですが、アニメーションに関しては世界最高だと思っています。私の初めてのアニメーション作品が、こうして日本で上映されたことはとても謙虚な気持ちにさせられます」と述べた。

取材・文/久保田 和馬


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