“ゴッホ”俳優ウィレム・デフォーに聞く『永遠の門』の秘話!「すばらしい師に恵まれた」
日本で最も愛されている画家の一人、フィンセント・ファン・ゴッホ。『永遠の門 ゴッホの見た未来』(公開中)は、孤独な彼の晩年を通して“アート”そのものに迫った力作だ。本作でヴェネツィア国際映画祭・男優賞を受賞し、アカデミー賞主演男優賞候補にもなったゴッホ役のウィレム・デフォーと、『潜水服は蝶の夢を見る』(07)などを手掛け、画家としても活躍するジュリアン・シュナーベル監督がそろって来日。シュナーベルのデビュー作『バスキア』(96)でも共に仕事をし、友人同士でもある2人が、ゴッホの目を通して絵画や芸術の神髄を描く本作への熱い想いを語ってくれた。
「ウィレム・デフォーという人物なくしては、この映画を作ることは不可能だった」(シュナーベル)
――37歳のゴッホ役に63歳のデフォーさんを選んだ理由を教えてください。
ジュリアン・シュナーベル監督(以下、監督)「なんといっても、ウィレムには卓越した演技力があり、またゴッホのキャラクターの深さ、存在感を自然に体現できるくらい人生経験も豊富だから。ウィレム・デフォーという人物なくしては、この映画を作ることは不可能だったと思うよ」
――ゴッホを演じる上で、軸にしたことはなんですか?
ウィレム・デフォー(以下、デフォー)「絵を描くことだね。映画の中でもゴッホが『僕の絵は僕自身だ』と語るシーンがある。だから、役作りをする時に、絵を一生懸命に描くという行為がいいスタートになったんだ。幸いにも、僕はジュリアン・シュナーベルというすばらしい師に恵まれたので、彼からたくさんのことを学んだよ。絵画のことだけじゃなくて、普通とは違う、新しい視点で物事を見る方法も身につけた。さらに、人生にどうアプローチしたらよいかという、それまでとは考え方が変わるようなことも学んだんだ」
監督「本作でウィレムはセリフを覚えるほかに、画家として絵筆を持ち、実際に絵を描く演技をしなければならかった。というのも、彼が絵を描く過程のシーンがたくさんあったからね。絵を描きながら、他の俳優と演技のやり取りをしたり、時には、他の俳優が彼に話しかけているシーンを撮るために、彼自身がカメラを持ったりすることもあった。絵を描きつつ、いろんなことを同時にやって、しかもそれらを全部自然に見せなければならなかった。だから、生徒が先生に絵を習うといったような単純な話ではなく、すごく大変なことだったと思う」
デフォー「例えば、映画の始めのほうに出てくる古靴の絵は、キャンバスが真っ白な状態から僕が描いていった。どれくらい絵の具をつけるのか、どれくらい筆の跡を残していくのか。そういう選択をしながら、演技をする……ということを、いま、ジュリアンが言葉にするまで、すっかり忘れていたよ。確かに大変だったなぁ(笑)」
監督「そういう意味では、絵画そのものもキャラクターの一人、と言えるよね。マチュー・アマルリックが演じた医師とのシーンは、ゴッホが彼の人物画を描きながら会話をしているから美しいのであって、ただ話しているだけだったら、全然違う印象になったはず。このシーンは本当によどみなく進んでいるので、ごく自然に見えるけれど、実はすごく難しいシーンなんだ」
「役を演じていると完全に自分を埋没させることができる」(デフォー)
――アーティストにとって、表現することの幸せはどこにあると思いますか?
監督「例えば、僕が絵を描いている時、自分で良いと思うまでは決して終わらない。自分が『これでよし!』と心から納得した時、初めて絵筆を止めることができる。もうこれで完璧だ、ここで死んでもいい、そんなふうに思えた時こそが喜びだ」
デフォー「僕たちは常に、いま、自分が置かれている状況とは違うものを望みながら生きてしまいがちだよね。でも、役を演じていると、いま、存在している状態の中に、完全に自分を埋没させることができるんだ。こういう出来事に対しては、こういうリアクションをするといった、身についてしまったクセをすべて置き去りにできる。これをすれば、これがもらえるといった、日常の取引を忘れることができる。ただ、純粋に走るという行為だけに没頭するアスリートのような状況になるわけで。その時が一番幸せかな」
監督「この映画の中でも走っているシーンがたくさんあるよね」
デフォー「そう!だから、僕はこんなにハッピーなんだ(笑)」