第32回東京国際映画祭の東京グランプリはデンマーク映画『わたしの叔父さん』

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第32回東京国際映画祭の東京グランプリはデンマーク映画『わたしの叔父さん』

東京グランプリ/東京都知事賞は『わたしの叔父さん』に輝いた
東京グランプリ/東京都知事賞は『わたしの叔父さん』に輝いた

第32回東京国際映画祭のクロージング・セレモニーが11月5日に東京国際フォーラムで開催され、各賞が発表された。コンペティション部門の最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞は、フラレ・ピーダセン監督のデンマーク映画『わたしの叔父さん』。日本から選出された、足立紳が監督&脚本を手掛けた『喜劇 愛妻物語』は最優秀脚本賞を受賞した。

第32回東京国際映画祭のクロージング・セレモニーが開催された。受賞者ズラリ!
第32回東京国際映画祭のクロージング・セレモニーが開催された。受賞者ズラリ!

今年は115の国と地域、1804本もの応募の中から14作品がコンペティション部門に選ばれた。『わたしの叔父さん』は、静かで美しい映像のなかにユーモアも漂い、ヒロインの選択が胸に迫る愛の物語。獣医になるという夢を抱きながらも、年老いて体の自由が利かない叔父の面倒を見ている女性の姿を描く。リアリティ追求するために、実際の叔父と姪をキャスティングしている。

主演女優のイェデ・スナゴー、プロデューサーのマーコ・ロランセンとステージに上がり、ピーダセン監督は「心臓がバクバクして感動しています」と興奮の面持ち。「小さな作品です。少人数のキャストとクルーで一所懸命に撮りました。それだけに非常に光栄な賞です」と撮影を振り返りながら、「彼女は女優としてだけでなく、ストーリーのアイデア段階からサポートしてくれた。最高の女優」とイェデに感謝しきり。「ここにいらっしゃる監督の皆さん、彼女をあなた方の作品に貸しだすことはできますが、私から奪わないでください」と訴え、会場の笑いを誘った。本作で初主演を果たしたイェデは涙を浮かべながら「すばらしい体験をした。私もピーダセン監督と一緒に仕事がしたい」と相思相愛の想いを明かしていた。

主演女優が涙!
主演女優が涙!

審査委員長のチャン・ツィイーは「感動的な詩のような語り口で物語ってくれた。抑制的で繊細なカメラワークで、忘れ去られる人間の情感を力強く表現している」と『わたしの叔父さん』を評価。今回の審査を通して「映画の持つ文化性、芸術性、多様性を感じることができた」と貴重な経験となった様子で、プレゼンターを務めた小池百合子都知事は「これを機に東京から羽ばたくクリエイターの方々がいることを大変光栄に思っています。2020年オリンピック・パラリンピック競技大会はスポーツの祭典であるだけでなく、文化の祭典でもある。江戸、日本の文化を東京発で伝えていきたい」と世界に向けてメッセージを送っていた。

日本からコンペティション部門に選出された『喜劇 愛妻物語』は最優秀脚本賞を受賞。足立監督は「この映画は私生活をさらけだしましたが、かといって自分自身や僕の妻、そのままを演じていただいたわけでもない」と口火を切り、「濱田岳さんと水川あさみさんがシナリオを体現してくださったから、評価していただけた」と役者陣に最敬礼。

また日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞したのは、東京新聞社会部記者の望月衣塑子の姿を通して日本社会が抱える同調圧力や忖度の正体に迫るドキュメンタリー『i-新聞記者ドキュメント-』。森監督は「この国はいま“空気”という目に見えないものが、いろいろな機能を停止させている。特に言論や表現に関しては気まずい状況になっている。そうしたなかでこの作品が賞を獲れた」と喜びを噛み締めていた。

東京ジェムストーン賞の吉名莉瑠は「毎日に感謝してすばらしい女優になれるように頑張りたい」と意気込み告白
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<第32回東京国際映画祭コンペティション部門受賞結果>

■東京グランプリ/東京都知事賞:『わたしの叔父さん』(フラレ・ピーダセン監督)

■審査委員特別賞:『アトランティス』(ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督)

■最優秀監督賞:サイード・ルスタイ監督(『ジャスト 6.5』)

■最優秀女優賞:ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ(『動物だけが知っている』)

■最優秀男優賞:ナヴィド・モハマドザデー(『ジャスト 6.5』)

■最優秀芸術貢献賞:ワン・ルイ監督(『チャクトゥとサルラ』)

■最優秀脚本賞:『喜劇 愛妻物語』(監督/脚本:足立紳)

■観客賞:『動物だけが知っている』(ドミニク・モル監督)

<アジアの未来部門>

■作品賞:『夏の夜の騎士』(ヨウ・シン監督)

■国際交流基金アジアセンター特別賞:レザ・ジャマリ監督(『死神の来ない村』)

<日本映画スプラッシュ部門>

■作品賞:『i-新聞記者ドキュメント-』(森達也監督)

■監督賞:渡辺紘文監督(『叫び声』)

■東京ジェムストーン賞:吉名莉瑠(『テイクオーバーゾーン』)、伊藤沙莉(『タイトル、拒絶』)、佐久間由衣(『“隠れビッチ”やってました。』)、ヨセフィン・フリーダ(『ディスコ』)

<アメリカン航空アウォード 大学対抗ショートフィルムコンテスト>

■グランプリ

『Down Zone』(大阪芸術大学、奥井琢登監督)

取材・文/成田 おり枝


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