性同一性障害の現代アーティスト、ピュ~ぴるが一番大事にしていることは?

インタビュー

性同一性障害の現代アーティスト、ピュ~ぴるが一番大事にしていることは?

華やかでポップでエネルギッシュなドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(3月26日公開)に注目! 性同一性障害の現代アーティスト、ピュ~ぴるをフィーチャーした本作は、彼女のアートの制作過程だけではなく、日常生活、失恋、性同一性障害の葛藤、去勢手術まで、8年間の軌跡を赤裸々に綴った作品だ。そこで、ピュ~ぴると松永大司監督にインタビューし、興味深い制作秘話を語ってもらった。

男性として生を受けたピュ~ぴるは、その違和感を解消すべく、自作の奇抜なコスチュームをまとい、クラブに通うようになる。やがてそのコスチュームがアートとして注目され始め、国際的な評価を得ていく。そんなピュ~ぴるの素顔を追い続けたのが、彼女の長年の友人で、映画『ウォーターボーイズ』(01)などで俳優としても出演した松永大司監督だ。

事の始まりは、何気ない会話からだったとピュ~ぴるは言う。「最初は『私を撮って』って言ってスタートしたんですが、あの頃はまさか映画になるとは思っていなくて。すぐにカメラは空気みたいな感じになっていきました」。松永監督も「取材中、ピュ~ぴるは僕のことを“監督”と呼びますが、普段は“ダイシ”としか呼ばないんです。監督と被写体って関係性は、映画だと明確にされていますが、その関係性は今でもよくわかってないですね」。

10年間撮ってきたが、思い悩んだ時期もあったという監督。「願わくば、もうピュ~ぴるを撮るのを止めたいって、今でもずっと思っています。それはピュ~ぴるが嫌なんじゃなくて、今生きている人を撮ることについて責任を感じるし、撮り続けることって苦しいから。撮ってなかった時期もありましたが、ある時再開したんです。やっぱりピュ~ぴるの人生って、本人も辛いんですが、そういうのもひっくるめて面白いので。自分の人生において、非常に大きく影響を受けています」。

劇中では、失恋やホルモン治療の過程、去勢手術後の過酷な状況までカメラに収められている。ピュ~ぴる自身は、そんな状況下で撮られることへのためらいはなかったのか。「全くなかったです。私がものを作ったり言葉を発したりする時は、一貫して何かを伝えたいって思いがあるから。ウソは嫌いだし、リアルで激しいものを突きつけるような表現が好きなんです。ここはダメでここは良いとか言い出したら、撮っていること自体の意味がなくなるでしょ。だから恥ずかしいことも全てさらけ出す。アートでも映画でも、人の魂を揺さぶることが大切だと思っているから」。

伝えることは、ピュ~ぴるにとって使命感だともいう。「逃げ出したいと思ったこともありますが、最終的には私一人の問題じゃないことの方が多い。もう少し俯瞰的に見ると、私一人が苦しいんじゃなくて、同じような境遇の人もいっぱいいるから。根底にそういうパワーがあるので、自分は表に立とうと思って。辛くなった時は人のことを思うと、乗り越えられるんです」。

ピュ~ぴるが一番大事にしているのは、人と人との絆なのだ。横浜トリエンナーレで展示した56,000羽の折り鶴からなるアートは、そのことを象徴するように、たくさんのボランティアの人々の協力も借りて完成した大作である。松永監督も鶴を折った一人だ。「折ったというか、折らされたんです。ピュ~ぴる、人使いが荒いんですよ(笑)。いつの間にか巻き込まれていって、アシスタントみたいになってました。海外でも僕が窓口みたいなことをやるようになり、片言の英語でやりとりをするようになりました」。

監督がピュ~ぴるといて一番達成感を感じるのは、作品の完成後だという。「僕が窓口だから、海外のメディアや美術館の人たちから、さんざん文句を言われるんです。どうしてこんなに時間やお金がかかるのかとかね。その度に僕はピュ~ぴるの作品に対する思いを説明する。そして作品が完成すると、彼らの反応ががらっと変わるんです。それは、してやったりですよ。パフォーマンスとかをやると、美術館の館長さんなどが『とにかく素晴らしい』と言ってくれるのが気持ち良くて。そういう時間を共有できるのは最高ですし、ピュ~ぴるといると特別な体験をさせてもらえるんです」。

ピュ~ぴるの創り出すアートだけではなく、彼女の生き様自体が、見る者の心にビッグウェーブを起こす。松永監督が、友としての距離感で撮った作品だからこそ、これほどまでのパッションが切り取れたのだろう。ふたりの絶妙なコラボレーション作品をとくとご覧あれ。【Movie Walker/山崎伸子】

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