SNSでパワーワード続出!ヨーロッパ企画・角田貴志が“すみっコ旋風”の心境を語る
11月8日に封切られるや口コミを中心に話題が広がり、週末動員ランキングで初登場3位にランクインした『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(公開中)。SNS上ではシンプルに「泣ける」という感想だけでなく、癒し系映画だと思いきや大人も号泣させられる「逆詐欺映画」や、キャラクターたちが持つ複雑なバックグラウンドから「パステルカラーのジョーカー」など、本作を形容するパワーワードが相次いで登場し、一時はTwitterのトレンドで1位を獲得するほどの大旋風を巻き起こしている。
このような予想外の事態に、本作の脚本を担当したヨーロッパ企画の角田貴志は「予想外です」と顔をほころばせる。「小さいお子さんからすみっコファンの大人まで、幅広く楽しんでもらえるようにと作ったつもりではあるのですが、こんなに大きな反響があるとは正直思っていなかった。それどころか、台詞がないナレーションベースの作品なので、物語の内容がどこまで伝わるのか心配だったぐらいで…。なので、いまは素直に驚いています」と語ると、「これから本作を観る人には、妙にハードルを上げすぎないで、素直に観ていただければと思います」と照れ笑いを浮かべた。
「リラックマ」や「たれぱんだ」など、これまで数多くの人気キャラクターを生みだしてきたサンエックスが、2012年に発表した「すみっコぐらし」。その愛くるしい魅力で子どもから大人まで、さらには海外からも圧倒的な支持を集め、今年春に発表された「日本キャラクター大賞2019」では見事グランプリを受賞。サンエックスのキャラクターとして、初の劇場用アニメーション作品となった本作は、“すみっコ”たちが絵本の中で出会った新しい仲間のために大冒険を繰り広げる姿が描かれていく。
さむがりの“しろくま”や、自分に自信がない“ぺんぎん?”、食べ残された“とんかつ”、恥ずかしがり屋の“ねこ”、実は恐竜の生き残りの“とかげ”。ちょっぴりネガティブだけど個性的な“すみっコ”たちは、お気に入りの「喫茶すみっコ」の地下室で一冊の飛び出す絵本を見つける。突然、その絵本の世界に吸い込まれてしまったすみっコたちは、そこで自分が誰なのかわからないひとりぼっちの“ひよこ?”と出会うことに。
実は本作のオファーをもらうまで、「すみっコぐらし」の存在をまったく知らなかったという角田は、『夜は短し歩けよ乙女』(17)で脚本を担当したことでも知られる上田誠が主宰する劇団のヨーロッパ企画に2004年から参加。「僕らヨーロッパ企画では、みんな俳優をやりながら映像作品を作ったり、それぞれの活動をしています」と語る角田自身、脚本家やデザイナーとしても活動している。「なので、引き受けた仕事に誰が合うかとヨーロッパ企画のメンバーの中で割り振りをしていくんです。僕に白羽の矢が立ったのは、おそらく以前NHKで『銀河銭湯パンタくん』という子ども向けの人形劇を手掛けていたからではないかと思います」と、本作を担当することになった経緯を振り返る。
そして「すみっコぐらし」の生みの親である、よこみぞゆりをはじめとした開発チームに加え、まんきゅう監督ら大勢のスタッフで話し合いを重ねながら、それぞれのアイデアを取り入れて脚本を構築していったとのことで、「“みんなで作る”ということを特に意識しました」と明かす角田。さらに「特に参考にした作品はないんです」と、SNSで引き合いに出されていた作品についても言及しつつ、「ただ、ヨーロッパ企画の演劇で“チーム感”とか、それぞれのキャラクターが活躍するような作品をやってきたので、無意識にそれが反映されているかもしれません」と、ヨーロッパ企画らしさがすみっコたちに滲みでていることをにおわせた。
そんな角田、いまではすっかりすみっコに魅了されているようで「脚本を書いていたら、“ほこり”や“ざっそう”、“たぴおか”たちが、メインのすみっコたちよりも動きをつけやすいキャラクターだったので助けられた部分もあって、好きになりましたね」と楽しげに語り、「メインの子たちにはみんなそれぞれ均等に想いがあるんですけど、選ぶなら“ねこ”ですね」と推しすみっコを告白。「ほかの子たちはきっかけがあれば動いてくれるんですけど、ねこは恥ずかしがり屋なので頑張らないと動いてくれない。そういうところで逆に物語を動かしてくれるので、すごく良いキャラクターだと思いました」と熱弁を振るい、映画の終盤にねこが活躍するアイデアを自ら出したことを明かした。
各地の劇場では平日でも満席が相次いでいる本作。11月22日(金)には新宿ピカデリーで応援上映が開催されることも決定するなど、まだまだ“すみっコ旋風”は続きそうだ。そうなるとやはり続編の可能性にも期待が高まるところだが、それについて角田は「どうなんですかね(笑)。連続ものとかでやってみたい」と目を輝かせる。そして「最初のほうの案では、すみっコたちが工場見学に行ったり、働く話などのアイデアも出ていたので、そういうのが実現できればいいですね。今後やっていく上でも、世界観を壊さないようにしていきたいですね」と意欲的な姿勢をのぞかせていた。
取材・文/久保田 和馬