水道1日2時間、停電も慣れっこ。北朝鮮の慎ましい家族の日常とは?
『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』(05)で世界中を笑いと涙の渦に巻き込んだ在日コリアン二世の映像作家ヤン・ヨンヒ監督が、待望の最新作『愛しきソナ』(4月2日公開)を送り出す。タイトルのソナとは、北朝鮮のピョンヤンに住む監督の姪っ子のこと。本作では、北朝鮮に住むヨンヒ監督の兄たち親子の日常を通じて、二国にまたがる家族の強い絆が丹念に語られる。
ヨンヒ監督には3人の兄がいて、ソナは次男の娘だ。冒頭、愛くるしい少女ソナがおいしそうにアイスクリームを食べている。そのあどけない天真爛漫な表情を見るだけで、ヨンヒ監督が彼女をいかに愛しているか、手に取るようにわかる。このソナの可愛らしさは本作の一番の見どころだが、本作で描かれているのはそれだけではない。
新鮮に映るのは、北朝鮮での慎ましい生活ぶりだ。水道の供給は1日2時間しかなく、電気の使用料も制限されていれば、ガスも大変高価なものだという。停電も日常茶飯事らしく、真っ暗になってもソナは明るく騒ぎ、逆に暗い状況を楽しむ余裕さえ持っている。なんと頼もしいことか。そんな生活をしながら、工夫してヨンヒ監督を心尽くしのごちそうでもてなす兄嫁たち。「ヨンヒ監督が来た時は、冷蔵庫の中身が充実する」とにこやかに笑う兄嫁を、カメラは親密さをもって追っていく。常に整頓されたこぎれいなキッチンからも、賢くたくましく生活する北朝鮮の妻たちの日常が申し分なく伝えられ、好感が持てる。
前作『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』では、父親を軸に家族を描いたヨンヒ監督だが、本作では姪っ子ソナや大阪で暮らすヨンヒ監督の母、兄嫁たちの強さ、健気さが印象的だ。ピョンヤンで暮らす兄たち家族に40年近くも仕送りを続けるヨンヒ監督の母の肝っ玉母さんぶりには頭が下がる。また、ソナの母が子宮外妊娠で亡くなり、その後に嫁いできた兄嫁も美しくて実に良くできた人である。とりわけ彼女が、大阪で暮らす姑の苦労を思いながら、ギターで歌い上げる母の歌は、見る者の涙を誘う。
前作を発表したせいで北朝鮮政府から入国禁止を言い渡されたヨンヒ監督。そのせいでソナの映像は2005年当時でストップしたままだ。でも、成長したソナの手紙によると、叔母の影響からか大学で英文科を専攻したと聞いて実に無性に嬉しくなった。ソナもきっとヨンヒ監督のように、ワールドワイドな心意気で、今後の人生を切り開いていくのではないか。その成長ぶりをまたスクリーンで確かめたいものだ。ヨンヒ監督が早くソナたちに再会できるよう、心から祈る。【MovieWalker/山崎伸子】
配給:スターサンズ
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