『キラー・インサイド・ミー』ウィンターボトム監督「誰もが幸福や愛を壊してしまう可能性を秘めている」
4月15日(金)より公開となるマイケル・ウィンターボトム監督の『キラー・インサイド・ミー』は、ジム・トンプソンの原作小説「おれの中の殺し屋」をほぼ忠実に映像化したものだ。そんな本作について監督にインタビューした。
――監督は創作活動においてデビュー時からずっと持ち続けている信念はありますか?
「特にありません。このジャンルだからこういう信念で、といったものもないし、それぞれ違いますから。作品をよく理解して、『よし、この作品はこういうふうに作ろう』となるんです」
――ある人は「この映画は見た人の人間性を映し出す鏡のような映画」だと言いました。監督はこのジム・トンプスンのストーリーや登場人物から何を一番強く感じましたか?
「この本を読んだ時、トンプソンは素晴らしい作家で、優れた表現者だと感じました。多くのノワール作家が生と死、暴力などを題材に作品を書いています。しかし、読み終わってしまったら、作品の内容なんて忘れてしまいます。その一方で、トンプスンは本を読んだ後にもずっと心の中に残るんです。そこに心が動かされたんです。トンプスンはこの世の中がどんなものであるのか、なぜ人がそういう行動をとってしまうのかということを極端な例を用いて見せてくれているんです。なぜ人は幸福や愛を破壊してしまうのか、などをね」
――原作を読まれていると思いますが、トンプスンの世界観でここだけは守り、映画化の際も描きたいと感じ、描いた部分はありますか?
「可能な限り原作に忠実なものにしたいと思いました。原作に限りなく近い姿で描き、原作の中に出てくる会話もそのまま使いました」
――監督ご自身の内にも抑えられない衝動がありますか?
「私は自分をコントロールできる人間だと思います。『抑えられない衝動』はちゃんと抑えているんです(笑)」
――主人公ルー・フォードはジョイスとエイミーという女性から献身的で、もしかしたら命をかけても良いというほどの強い愛に包まれていたと思います。彼のどこにそういう魅力があったのでしょうか?
「ルーは破壊してしまう人なんです。ふたりの女性との関係も壊す。結局、自分も破壊してしまう。物語の核となっているのは自己破壊です。その人を愛するがために破壊してしまう。そこに生まれた『自己破壊的な愛』というのでしょうか。そういうところだと思います」
――ケイシー・アフレックはルーを演じることで強い印象を残しました。彼にどのような印象を持たれましたか?
「彼と仕事をしたのはこれが初めてでした。彼に会うためにロサンゼルスに出向きました。本について話したりして、出演を了承してもらいました。この役について、顔を合わせた俳優は彼だけなんです。彼は素晴らしい俳優ですよ。ケイシーはルー・フォードの素質を持ち合わせているのです。この映画ではルー・フォードという男が自分自身によって、どんな人間であるのかということが語られます。ケイシーは、ルーの内側ではどんな事が起こっているのか、上手く観客の興味を惹いています。ルーは、表面的には、ゆっくりとした口調で、単純なタイプの男に見えます。しかし、彼の内側では、様々なことが起こっているのです。ケイシーは、とてもリアルに演じてくれたと思います」
――本作はジェシカ・アルバとケイト・ハドソンにとっても挑戦だったと思います。撮影現場ではいかがでしたか?
「彼らは素晴らしかったです。最初に会った時に、この脚本はとても難しいものであるということが彼女たちはわかっていました。特にジェシカは、別の役を用意していたのですが、彼女自身からジョイスを演じたいと申し出てきたのです。他のキャストと共にジェシカとケイトも撮影現場に来て、ケイシーと現場の雰囲気を盛り上げていたと思います」
――次回作の構想を教えてください
「現在、インドで撮影しているのですが、『Trishna』という作品で、Thomas Hardyというイギリスの作家の作品が原作です」
――これから見る日本の観客に本作の見どころをアピールしてください
「これはジム・トンプスンの『おれの中の殺し屋』を忠実に映像化した作品です。私にとって、この作品は殺人者、暴力について描いたものでなく、なぜ人は幸福や愛の可能性を壊してしまうのか、について描いたものです。誰にでも起こりうることです。大事な人を傷つけてしまうとわかっているのに、その行動を止められない。トンプソンはそうした行動に出てしまう境目というか、感情が爆発してしまう瞬間を描いているんです。そこを是非見てもらいたいですね」
ケイシー・アフレック演じる心に闇を抱えた保安官ルーが自己崩壊していく様をスリリングに描いた本作。ルーに絡むふたりの女優、ジェシカ・アルバとケイト・ハドソンの体当たりの演技にも注目しながら、監督がアピールする“破壊的行動に出るその境目”をじっくり鑑賞してもらいたい。【Movie Walker】