神木隆之介と浜辺美波、『屍人荘の殺人』で初共演の印象は「ラスボス」と「ドジ」!?
いまや日本映画界の若きエースとなった神木隆之介と浜辺美波が、奇抜なトリックで話題の密室ミステリー映画『屍人荘の殺人』(公開中)で共演した。原作は、デビュー作にして国内の主要ミステリー賞4冠獲得という前人未到の快挙を遂げた今村昌弘の同名小説。小説の世界から抜け出たようなハマリ役を演じた2人に、本作の撮影秘話を聞いた。
大学のミステリー愛好会に所属する自称“ホームズ”明智恭介(中村倫也)と、ミステリー小説オタクで、“ワトソン”的な役回りの葉村譲(神木)。この凸凹コンビが、謎の美人女子大学生、剣崎比留子(浜辺)の依頼で、脅迫状が届いたというロックフェス研究会の合宿へ参加する。彼らがペンションの“紫湛荘(しじんそう)”を訪れると、そこで予想外の連続殺人事件が起きていく。
神木が演じる主人公の葉村は、平凡な大学生で、名推理をするわけでもないし、どちらかというとディープなキャラである明智や比留子に振り回される受け身のキャラだ。そんな葉村を、決して埋もれることなく、原作同様の愛すべきトホホキャラとして成立させられたのは、神木の安定した演技力によるところが大きい。
神木は葉村役について「個性豊かなキャラクターが多かったからこそ、僕は、いわゆる一般常識を踏まえた部分を大事にして演じなければいけないと思いました」と、フラットな“普通の青年”を目指して役作りをしたそうだ。
「明智役の倫也くんは、なにかと仕掛けてくるキャラクターなので、それに対して自分がどこまでリアクションをするべきかを考えました。例えば、うるさいと思ったら『ちょっと静かにしてもらっていいですか?』とたしなめるようなリアクションをすることも心掛けました。僕まで乗せられちゃうと、全部がフィクションに見えちゃう気がしたので」。
原作が大好きだという浜辺は、敢えて原作の比留子像にとらわれないように演じたそうだ。映画では、元気よくナポリタンを大口でほおばったり、謎の決めポーズが追加されたりと、より振り切ったキャラクターになっている。「脚本を読んだり、衣装合わせをしたりしていくうちに、原作と映画の比留子では少しテンションが違うんだなと気づきました」。
「浜辺さんの本性はドジです」(神木)
メガホンをとったのは、連続ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」や「民王」などの木村ひさし監督で、コミカルな演出が冴える。「監督は現場で、突拍子もない演出をされることが多かったので、私としては驚きつつも、焦らないでそれを取り入れていくのに必死でした」と言う浜辺。「コメディ要素も強いので、やりすぎるとキャラクターがうるさくなると思ったので、自分から+αでやろうとはせず、あくまでも木村監督から言われたことのみをやっていきました」。
例えば、比留子が謎解きをする時、いきなり相撲の土俵入りさながらに、雲龍型のポーズを取るところがかなりシュールで笑える。浜辺は「あのシーンは、いきなり現場で監督から動画を見せられ、やることになりましたが、一番苦労したシーンです。『本当にやるんですか?』となりました」と苦笑い。
神木が「あの相撲の型は、我々も現場で“?”しかなかったです。全員がよくわからないまま見ていました」と笑う。「木村監督は、堤(幸彦)組の方ですが、僕は『SPEC』シリーズで堤監督から洗礼を浴びていたので、ある程度はうなずけました。堤監督の現場でも“?”な演出がたくさんありましたが、できあがった映画を観ると、『なるほど、こういうふうにつながっていたのか』とよく感心させられました」。
また、初共演となった2人に、それぞれの印象について聞いてみた。神木は浜辺について「本性はドジです」と言うと、浜辺も笑いながらうなずく。「でも、比留子もドジなので、そこは浜辺さんに合っているかなと思いました。浜辺さんは基本的に優しくて、僕がくだらないことを言っても常に笑ってくれます。いざ撮影が始まり比留子になると、目力があるので、すごい強さを感じます。それは、比留子の強さというよりは、浜辺美波という人間のなかにある強さだと実感しました。じゃないとあの表情は出ないと思います。さすが浜辺美波だなと」と称えると、浜辺は「いえいえ」と首を横に振る。
ちなみに浜辺のドジな点について神木は「なにもないところでこけたりします。現場検証のシーンで、自分の開けたドアに頭をぶつけて『痛っ』となっていました。しかも本番で(笑)。そういうところもすてきです」とニンマリ。
浜辺は、神木について「原作が大好きでしたが、もしも実写化するのなら、葉村くん役は神木さんがいいなと思っていました」と告白。「だから、本当に葉村くんにぴったりの方をキャスティングしてくださったなと思い、すごく楽しみにしていたんです。しかも私が頭のなかで想像していた以上に葉村くんすぎて、ワトソンとして支えてくれる安定感や、受け止めてくださる感じに安心感を覚えました」。
神木は「いやいや、僕の役作りこそ、浜辺さんなしではできなかったですから」と恐縮する。「神木さんから『比留子はなぜ、葉村をアシスタントに選んだのか?』と聞かれたんです」と浜辺が言うと、神木は「原作や台本を読んでも、そこがどうしても理解できなくて。でも、そこがわからなければ、僕は葉村という役が作れないと思ったので、実際に比留子役を演じる浜辺さんに聞いたんです。そしたら浜辺さんが『お人柄ですかね』と答えてくれたので『わかりました。ではお人柄を良くします』と言って、葉村役に臨みました」と笑顔で話す。
浜辺は「私はふんわりと返しただけでしたが、撮影では『ああ、これだよ!』と思える葉村くんがいてくれました。それは原作ファンとしても、比留子としてもうれしかったです」と、喜んだそうだ。
「神木さんは一番のラスボスでした」(浜辺)
また、2人とも、若くして映画やドラマの主演を何度も務めてきて、番宣や舞台挨拶などでも安定感のある受け答えに定評がある。互いにその座長ぶりを、どう感じているのか。浜辺は「私はまだキャリアが浅いのですが、これまでいろいろな方を拝見してきたなかで、神木さんはすごく変わった座長でした」と言う。
「よし行こう!という座長感を雰囲気で出す方ではないのですが、いつの間にか神木さんの雰囲気に持っていかれ、気がつけば同じ方向を見ています。神木さんが醸し出す人柄の良さが全部を包み込んで支配している感じです。監督をはじめ、いろんな方を立てながらの座長というか、裏の支配者、裏の魔王みたいな感じでしょうか。一番のラスボスで、今回すごい背中を見せていただきました」と感服する。
神木は「いやいや」と照れながら、浜辺について「トップ女優と言われるだけの貫禄と器があります」と褒め殺し状態に。「例えば、まったくもって泣き言を言わない。眠いとか寒いとか一切、言わない。でも、寝ていましたが…」と浜辺をいじりつつ「本当にしっかりしていらっしゃって、とても十代とは思えません」とキッパリ。
「コメントもそうだし、周りを把握できる力があります。今回も、僕や倫也くんがどう暴れようが、絶対に巻き込まれないマイスタイルを持っている。どう絡んでも揺るがない比留子がいてくれて、ありがたかったです」。
まさに葉村と比留子ながらに、息の合った掛け合いを見せてくれた2人。『屍人荘の殺人』は、中村倫也たち共演陣も含め、ユニークなキャラクターたちのアンサンブル演技で魅せる新感覚の密室ミステリーとなっている。かなりサプライズな展開になっているので、気を引き締めて謎解きにトライしてみてほしい。
取材・文/山崎 伸子