北村匠海、ストレス発散は“カレーとサウナ”。思春期の自分を救ってくれた『ぼくらの7日間戦争』を語る
映画やドラマでの俳優業に声優業、ダンスロックバンド「DISH//」でのアーティスト活動と、2019年も怒涛の活躍ぶりだった北村匠海が、世代を超えて愛され続けてきた宗田理のベストセラー小説の魂を受け継いだ新たなストーリーでアニメーション映画化した『ぼくらの7日間戦争』(公開中)で、芳根京子とW主演。宮沢りえが14歳で鮮烈な女優デビューを果たした実写版『ぼくらの七日間戦争』(88)も、往年のファンが多いと思うが、北村自身も小学生時代から読み込んでいた原作小説について「当時の自分を助けてくれた」と語るなど、特別な想い入れがあったようだ。
アニメ版となった本作の舞台は、昭和ではなく、2020年の北海道。北村が声優として声を当てたのは、歴史好きで本ばかり読んでいる孤独な高校2年生の鈴原守役だ。彼は、隣に住む幼なじみの千代野綾(芳根)に想いを寄せているが、ある日綾たち一家が東京に引っ越すことになることを知る。「17歳の誕生日をこの街で過ごしたかった」という綾の本音を知った守と彼女の友人たちは、1週間の家出計画を立て、古い石炭工場に身を隠すことに。守たちと大人たちのバトルが繰り広げられていく。
「原作は、思春期のころの鬱屈した想いを代弁してくれました」
1997年生まれの北村は、『ぼくらの七日間戦争』をリアルタイムで観ていたわけではないが、小中学生のころに触れた原作について「思春期のころは悶々としていて、大人というすごく大きな存在に対し、なにかをぶつけたくなるような、鬱屈した想いを抱えていました。そういう気持ちを代弁してくれていたのが、この小説です」と、とてもシンパシーを感じていたことを明かした。
「僕は学生のころ、あまり表立っていろんなことを言えるタイプじゃなかったので、この小説によって救われていたんじゃないかと。これまでずっと語り継がれてきた小説だから、今回、声優としてW主演で参加させていただくことが、とても感慨深かったです」。
綾役を演じた芳根については、その人柄と演技力の両方を手放しで称える。「最初に声を聞いた時、すごくすてきだと思ったし、役にハマっていて、衝撃が走りました。芳根さんは真っ直ぐで、すごく家族想いの方。真っ白で汚れのない感じが、声にも出ています。また、さりげない気遣いもすごくて、『寒くないですか?』と、僕にまで声をかけてくれたり、『DISH//』のCDを買いました』と言ってくれたりして、びっくしました」。
北村は、アニメ映画『HELLO WORLD』(公開中)でも声を当てているが、その時は台詞を先行収録するプレスコ方式だったのでリップを合わせる必要のあるアフレコとはまったく勝手が違ったと言う。「同じく声を当てさせていただいた『HELLO WORLD』は画がないなかで演じましたが、今回はアフレコだったので、別ものという感じでした。芳根さんたちと皆で2日間掛けてみっちり撮れたことが大きく、皆さんと会話をしながらの収録だったので、すごく吸収できるものが多かったです」。
「僕はSNSよりも、直接会って話すほうが話せるタイプ」
本作は2020年が舞台ということで、劇中で描かれるSNSの闇については「ある種、現代病に近いんじゃないかな」と受け取ったそうだ。「SNSでしか自分の言葉を発せない人もいますし、普通はあまり喋らないのに、メールだと饒舌になる人もいます。歴史好きの守が、SNSのコミュニティにしか居場所を見いだせない気持ちもわかります。僕の学生時代は、まだそこまでSNSが普及されてなくて、僕自身も当時はやっていなかったけど、そこだけで自分の居場所を決めちゃうのはもったいないなと。本当はそうじゃないのに、と思ったりします」。
北村自身は、SNSに対してどう向き合っているのだろうか?「僕はメールを上手く返せないし、会話を続けるのも下手というか、直接会って話すほうが話せるタイプです。でも、誰もが携帯端末を持っているいまの時代は、匿名でSNSに書き込めるし、もちろんいい面もありますが、この映画でも描かれているように、相手が遊び半分で投稿したコメントが、誰かを傷つけている場合もあります。特に、僕たちがいる業界はそういうものの標的になりがちなので、映画を観ていて胸が痛くなる瞬間はありました」。
ただ、本作では、友情に亀裂をもたらすSNSに警鐘を鳴らす一方で、家出生活におけるリアルな友情の絆もしっかりと描かれている。「仲間同士でも、意見がぶつかって喧嘩することはあると思います。でも、7日間を過ごした仲間だから、感情を爆発させたあとで、改めて相手の人となりを知って、前に進めることもあると思うんです。僕は、学生のうちにそういう腹を割って話せる友だちを作ったほうがいいと思いますし、また、冒険したいと思う心も忘れないでほしいです。実際、僕も収録していて、秘密基地で皆がカレーを作るシーンなどは、すごくワクワクしました」。
「下の世代に影響を与えられるような仕事ができるように頑張りたい」
まもなく2019年も終わるが、多忙を極めるなか、北村はどのようにしてストレスを発散し、英気を養っているのか?と聞くと「カレーとサウナです」と言う。カレーは自分でスパイスを調合して作るそうだ。「両方、汗が出ます。あとは、夕方まで仕事で、次の日が昼入りという日には、友だちと弾丸でキャンプに行って、朝に帰るみたいなことをやったりします。信頼できる友だちと会う時間を無理やりにでも作らないと、家に引きこもってゲームばかりしてしまうので」。
以前から俳優業とアーティスト活動を両方続けていきたいと公言している北村。現在公開中の『影踏み』や本作をはじめ、2020年も『サヨナラまでの30分』(1月24日公開)、『さくら』(初夏公開)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020年8月14日公開予定)と3本の主演映画が待機中だ。
「バンドのメンバーに会っても『久しぶりだね』と言われることもありますが、自分のなかでは、いままでどおり2つを両立させたいという想いは変わらないです。それは、自分として生きられる場所と、自分じゃない人格を被って生きる場所という違いがありますし」と両方の良さを述べる。
北村によると「ライブでは、僕が書いた詞も、ライブ中の歌やMCも自分の言葉なので、僕が生きてきたなかで生まれたものでしかないし、そこでしか闘えない。つまり歌やギターの腕も、僕自身が培ってきたものでしか勝負できないんです。映画は、共演者との化学反応的なおもしろさがありますし、いままでやったことのない役だからこそ、評価されることもあります」。また、メンバーからも「以前より1曲1曲に対しての感情移入や表情が変わってきた」と言われるそうで、2足のわらじを履くことの相乗効果もあるようだ。
最後に、2020年の抱負について聞いた。
「2020年はオリンピック&パラリンピックの年で、きっと僕と同じ世代の選手たちが、活躍すると思うんです。僕も23歳でなにか1つ、下の世代に影響を与えられるような仕事ができるように頑張っていきたいです。公開作も多いですし、そういう機会を与えていただいたことに感謝しつつ、精進していきたいです」。
取材・文/山崎 伸子