ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホが緊急来日!『パラサイト』の原点は監督の実体験だった!?
第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初めて最高賞にあたるパルムドールに輝き、世界各国で大ヒットを記録。外国映画というハンデを乗り越えて第92回アカデミー賞の最有力候補との呼び声が日増しに高まっている『パラサイト 半地下の家族』。2020年1月10日(金)の日本公開を前に、本作で4度目のタッグを組んだポン・ジュノ監督とソン・ガンホが実に13年ぶりに2人揃って来日を果たし、26日に都内で記者会見を行なった。
いま世界各国で社会問題となっている貧富格差への痛烈な批判を内包した本作。全員失業中で日の当たらない“半地下”の家で暮らす貧しいキム一家の長男ギウは、身分を偽って“高台の大豪邸”に暮らすIT企業社長のパク一家のもとで家庭教師のアルバイトを始める。思いもよらぬ高給に味をしめたギウは、つづけて妹のギジョンを美術の家庭教師としてパク一家に紹介。そして徐々に、キム一家はパク一家に“パラサイト”していくことに…。
パルムドールを皮切りに、全米各地の批評家協会賞では立て続けに作品賞や監督賞、外国語映画賞などを受賞。先日発表された第77回ゴールデン・グローブ賞では監督賞を含む3部門にノミネートされるなど大旋風を巻き起こしていることについて「まったく予想していませんでした」と微笑むジュノ監督は「これまでの作品と同じように素敵な俳優さんたちと一緒に映画を撮っていたつもりでしたが、撮り終わってから次々と予期せぬ出来事が起きている。私にとっては楽しいアクシデントだと受け止めています」とコメント。
そして「ガンホ先輩をはじめ、キャストの方々が見事なアンサンブルを見せてくれる作品ですので、本作が評価されるのは俳優の魅力によるところが大きい」と謙遜すると、ガンホは「特定の国に限られた話ではない地球上すべての人の物語を、ジュノ監督が温かい視点で描いてくれたから多くの国で共感を得られている」とコメント。「これは監督の20年にわたる努力と、作家としての野心が身を結んだ作品。ポン・ジュノ監督の進化の形です。その進化の終わりはどこなのか、『パラサイト』の次に来るリアリズムの発展を考えると怖いものでもあり、楽しみでもあります」とジュノ監督への絶大な信頼をあらわに。
またジュノ監督もガンホの演技について「カメラの横で見ていて、予想だにしていなかったディテールや動物のような生々しい演技が目の前で繰り広げられて、撮影中毎日ゾクゾクさせられました」と絶賛。「クライマックスのシーンの脚本を書いている時には、観客を説得させることができるだろうかと悩んだことがありました。けれど、それを演じる俳優がソン・ガンホだと考えた時に安心して書くことができた。ソン・ガンホであれば観客を説得できるだろうという信頼があるから、書き進めていくことができました」と、その絆の深さをのぞかせていた。
さらにジュノ監督は、本作の着想の原点について「この映画は、大学生の息子が裕福な家庭教師に行くことからスタートします。日本でも大学生が家庭教師をするように、韓国でもよくあることで、僕も裕福な家の中学生の男の子の家庭教師をしたことがあります」と、本作が自身の実体験から生まれたものであることを告白。「意図せず裕福な家の様子を隅々まで見る機会を得て、他人の私生活を覗き見ることができました。しかも、そのアルバイトを紹介してくれたのは当時の彼女で、いまの妻でもあります。なんとなく映画と似通っているのではないかと思いますが、僕は幸いにも2か月でクビになったので、この映画の後半のようにはならなかったのですが(笑)」と、楽しげに振り返る。
一方、ジュノ監督から4年ほど前に本作の構想を聞かされたというガンホ。「それ以前の作品でも監督は、構想を練っている段階から話を小出しにして教えてくるんです」と笑いながら「はじめは貧しい家族と裕福な家族の話だと聞いていたので、私は当然裕福な家族の社長の役だと思いました(笑)。まさか半地下に連れて行かれるとは想像もしていませんでした」と会場に詰めかけた記者たちの笑いを誘う。それにはジュノ監督も日本語で「本当にすみません」と呟き、ガンホは「次からは大雨が降ったり階段が出てくる話には出演したくないと思います(笑)」とユーモラスに語った。
最後に日本の観客に向けてジュノ監督は「多くの国での公開を経てついに日本での公開。とても期待しています。タイトルの通り、不滅の寄生虫のように観客のみなさんの体や頭、胸に長く留まり永遠に寄生するような映画になってくれたらいいと思います」と自信たっぷり。またガンホも「日本の観客のみなさんがどういう風に感じてくれるのかドキドキしています。この映画を深く楽しんでほしいと思っています」と期待を込めた。『パラサイト半地下の家族』は2020年1月10日の全国公開に先駆けて、12月27日(金)からTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて先行公開される。
取材・文/久保田 和馬