衝撃作『The Bang Bang Club』を引っさげ、ライアン・フィリップらがトライベッカ映画祭を席巻

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衝撃作『The Bang Bang Club』を引っさげ、ライアン・フィリップらがトライベッカ映画祭を席巻

4月20日から5月1日まで、マンハッタンで開催されたトライベッカ映画祭で特別招待作品として上映され、現在アメリカで限定公開されている『The Bang Bang Club』のインタビューが行われ、スティーブ・シルバー監督、ライアン・フィリップとライアンが演じた元戦場カメラマンのクレイグ・マリノヴィッチ、そしてテイラー・キッチュとマリン・アッカーマンが応じた。

真実を世の中に伝えようと、身を危険にさらしてでも紛争地はもちろんのこと、人々が苦しむ被災地などに進んで出向いていくジャーナリストたちも、想像を絶する悲惨な現状を目の当たりにして、一度は自分の役割と無力さに悩むことがあると言われている。

同作は危険を顧みず、1991年のアパルトヘイト終息までの紛争の様子を撮り続けた、“バン・バン・クラブ”と呼ばれた若き4人の戦場カメラマンたちがたどった運命を、1994年にタイム誌に掲載された「The Life and Death of Kevin Carter」という記事に基づいて忠実に作られた作品だ。

『父親たちの星条旗』(06)のライアンがピューリッツァー賞を受賞した戦場カメラマンのグレッグを、『ウルヴァリン X-MEN ZERO』(08)のテイラーが、同じく同賞を受賞しながらも、現場でのカメラマンとしての役割と人間としての役割に苦悩し続けたケビン・カーターを演じている。

メガホンをとったのは、タイム誌の記事を読んだ当時、別の作品の撮影で南アフリカにいたというシルバー監督。大学時代をヨハネスブルグで過ごした監督は、「アパルトヘイト終息までの約4年間の間に、2万人もの人々が紛争で亡くなっている。だからこの記事を読んだ時、いてもたってもいられなくなって、実際にグレッグとシルバ(4人のうちのふたりのカメラマン)に会いに行って話を聞いたんだ。綺麗事にしたくなかったし、90%は実際に起こった場所で撮影を行った」というだけあって、胸をえぐり取られるような実にリアルで見ごたえのある作品に仕上がっている。

監督の力量はもとより、ドラマの中心となったカメラマンに扮したライアンとテイラーたちの演技力によるところも実に大きい。テイラーに至っては、「苦悩を続けたケビンになりきるために、できることはみんなやったんだ。感情面、精神面、肉体面のあらゆる面でね。撮影までに30パウンド(約13.5kg)もやせたんだけど、撮影が始まるまでスカイプで監督と話をする度に、『お願いだから、それ以上やせないでくれ』って懇願されたんだ。でも言うことを聞かなかったよ。おかげで、自分なりにはケビンになりきれた気がする」と語っている通り、作品中のテイラーよりも健康的だ。

同作の共同執筆も手がけた元戦場カメラマンのクレイグは、「撮影で現場に出向いた時、南アフリカが16年前とあまり変わっていないことにとても驚いた。そして今もまだ、その時のことを思い出すと、とても感情的になってしまうんだ」と語っており、当時の心の傷が癒えるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし、クレイグを演じたライアンにとっては、実際に会って話をすることができたことが、難しいところでもあり、役作りにとても役立ったという。

「アパルトヘイトという言葉は知っていても、詳しいことは何にも知らなかったから、まずは歴史の勉強をしたんだ。本当はもっと早くクレイグに会って色々当時の話を聞いたり学びたかったんだけど、何しろ低予算映画だから実際に彼と会えたのは撮影の一週間前だった。実在する人物をその人の前で演じるというのはとても難しいことだけど、新しいことにチャレンジするのは大好きだし、それが役者としての醍醐味でもあるんだ。会えたことで当時の感情や食べ方も含めて、色々学べたと思う」と、クレイグを横にして、控えめながらも満足そうだった。

また、同作でクレイグの妻役を演じたマリン・アッカーマンも、撮影前に家を訪れ、約3時間、当時の話を聞いたり写真を見ながら笑ったり、泣いたりと素晴らしい時間を過ごしたことが、迫真の演技をするのに大いに役立ったそうだ。

最後に同作を見たクレイグは、ライアンについて「(僕を演じるには)あまりに格好良すぎるけど(笑)」と冗談を言った後、「自分も含めて、それぞれが、その人たちみたいに思えてとても驚いたんだ。もちろん映画なんだけど、当時の様子や人間ドラマが実に忠実に良く描かれていて驚いたし、その分、見ていて正直辛かった」と、ライアンの渾身の演技や作品に太鼓判を押した。

ライアンといえば、リース・ウィザースプーンと離婚した後、アビー・コーニッシュ、そして現在は最もホットなアマンダ・サイフリッドと熱愛中のため、パパラッチ攻撃には相当嫌な思いをしているはずだが、「カメラマンは写真で世の中のことを人々に知らしめることで、間接的に多くの人々を助けることも可能なんだ。だから、とても大切な存在だと思う。ツイッターやフェイスブックで世の中が変わったし、戦場カメラマンが亡くなったという意味においても(※1)、とてもタイムリーな作品だと思う」とメディアに友好的な姿勢を示した。

充実した私生活を送り、同作で深みのある役どころを演じたライアンはひと皮むけたようで、その夜に行われたレッドカーペットでも、実に気持ちよくメディアに対応する姿が印象的だった。【NY在住/JUNKO】

(※1)4月20日、第83回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞の候補作に選ばれていたドキュメンタリー映画監督でもあるティム・ヘザリントンが、カメラマンとして出向いていたリビア紛争で亡くなった。
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