宮沢氷魚が語る、LGBTQが題材の『his』と自身が感じたマイノリティの葛藤
「正解が見えない作品というのは、初めてだったかもしれない」
本作で、迅と渚、渚の妻子の複雑に絡み合った関係が、どういう形で着地するのかは、観てのお楽しみだが、宮沢は「皆がそれぞれ違うアプローチで、自分の置かれた境遇を乗り越えていきますが、人間は1人では生きていけないんだなと感じました」という感想を持ったそう。
演じた迅役について「正解が見えない作品というのは、初めてだったかもしれない」と振り返る。「ただ、正解がないからこそ成り立っている作品でもあったし、それぞれが自分の思い描く幸せに向かって闘っていく物語。かといって、1つの到達点に到達する話でもなく、先がわからないまま人生が進んでいき、それぞれが成長していく。そういう意味でも今泉監督らしいリアルな物語だなと思いました」。
本作の撮影が終わった時は「やりきった。これ以上、なにも出てこない」という達成感は感じたが、手応えはまだないそうだ。「あの時の持てる力やエネルギーは全部出しきりました。でも、僕たちの仕事はここからで、映画が公開されるまでは責任があるから」と気を緩めることはない。
「偽装不倫」でのブレイク後、宮沢がまとうミステリアスなオーラが話題となったが、彼自身は「自分ではわからないけど、『似たような俳優があまりいない』と言ってもらえるのは一番うれしいです」と笑顔を見せる。「でも、そこに頼るのはよくないから、そう見られている自分がいるということを理解したうえで、さらなるスキルや魅力をつけていけたらいいなと思っています」。
モデルとしても活躍する宮沢だが、俳優業と両方続けることについては、大いにメリットを感じているという。「モデルとして立っているだけでも、いろいろな経験をしてきた人と、経験の浅い人では、存在感がまるで違います。もちろんスキルもありますが、それだけではない経験値が、カメラを通して見るとすごく際立つんです。役者をやっていて、モデルの現場に戻ると、モデル業だけでは得られない自分の見せ方や表情を出せると思いますし、逆に俳優として演技をする時、モデルの現場で得た立ち姿や雰囲気などを上手く反映できたらいいなとも思っています。今後も、どちらもやっていきたいです」。
終始、穏やかな表情でしっかりと自分の意見を語ってくれた宮沢。彼が真摯に挑んだ映画『his』は、彼の俳優としての真価が問われる作品になりそうだ。
取材・文/山崎 伸子