【カンヌ国際映画祭】総評・親と子の関係を描いた作品が多かったのは偶然の一致か?

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【カンヌ国際映画祭】総評・親と子の関係を描いた作品が多かったのは偶然の一致か?

意外な結果はいつものことだが、今年のそれは後味がよろしくない。トリアー監督の舌禍事件がなかったら、結果がだいぶ違っていたのではないかとどうしても考えてしまう。

トリアー監督のあの発言は、『メランコリア』(日本2011年内公開)の評判も良く、本人も手ごたえを感じてしゃべりすぎたところに出てしまった、“言わなくても良い”ジョークだったと思うのだが。実に残念である。

とはいえ、映画祭は作品自体をコンペから外すことはせず、審査員は体当たりでメランコリーにとらわれた花嫁を演じたキルスティン・ダンストに女優賞を与えた。さらにトリアー作品の編集や助監督をよく手がけるアンダース・レフンの息子ニコラス・ウィンディング・レフンを監督賞に選ぶ。デンマーク人ながら、切れの良いバイオレンスアクションでアメリカの若者にカルト的な人気を持つ彼の受賞に快哉を叫ぶ若いプレスも少なくなく、芸術重視のカンヌから若く、新しい娯楽作も認めるカンヌという方向転換を印象付けることにもなった。これは物ごとの明るい面を見れば、だが。

確かに今年は“二代目”の活躍が目立つ年ではあった。審査員のリン・ウルマンはイングマール・ベルイマンとリブ・ウルマンの娘だし、ある視点部門のオープニング『永遠の僕たち』主演のヘンリー・ホッパーはデニスの息子。U2ボノの娘も『This Must Be The Place』でショーン・ペンの娘役を演じている。世代交代というよりも継承、という感じだ。コンペの出品作自体が親と子の関係を描いたものが多かったことと呼応するのではないだろうか。

親は子供に責任を持つべきだが、では子供のすることに対して、どこまでが親の責任なのか。親になる責任を持てない親を持った子供はどうすれば良いのだろうか。世界が生まれた時から、そして世界が終る時まで、今年のカンヌはその時、親もしくは大人は子供に何ができるのかを問いかける作品を持ってきた。『ツリー・オブ・ライフ』(8月12日公開)。すなわち、生命樹の最初と最後である。世界の始まりに思いを馳せる『ツリー・オブ・ライフ』と世界の終わりを描く『メランコリア』、二本そろってこそ今年のカンヌはその語るべきことを伝えられたと思うのだが。

子供と親を取り巻く状況は、世界で必ずしも良くはない。それでも『少年と自転車』(日本2012年公開予定)や『Poliss』の心ある大人たちのように、親の責任を代わる大人がいれば子供は救われる。子供は希望だ。希望を継承するものだ。一代ではなしえないことも継承してもらうことであるべき姿に近づける。現在とはその過程なのだ。我々は『ツリー・オブ・ライフ』、生命樹の一部なのである。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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