支離滅裂な脚本、棒読み演技…謎の金持ちが作った“最高で最低な”カルト作『ザ・ルーム』とは?
あまりの酷さから“駄作映画の『市民ケーン』(41)”と称賛(?)されてカルトムービー化し、2003年の初公開から現在まで世界中のどこかの劇場で上映され続けている『ザ・ルーム』。J・J・エイブラムス、ポール・ラッド、ジョナ・ヒルなど数々のハリウッド業界人もファンを公言するこの作品が「未体験ゾーンの映画たち 2020」のクロージング作品として、ついに日本に初上陸!本日3月6日から公開されている。
サンフランシスコの銀行で働く街の人気者ジョニーが、恋人・リサの浮気に感づいたことで疑心暗鬼に陥り、仕事の昇進を逃すなど幸せだった人生の歯車が少しずつ狂い出していく…という、あらすじだけ聞くと何の変哲もない作品のように思える本作。しかし、ペットボトルを床に投げつけるほど激高していた主人公が、その直後に友人に気づき、「ハ〜イ」と声をかけて態度を急変させるといった支離滅裂な脚本、壊滅的なまでに棒読み演技など、欠陥だらけの作品なのに、それが奇跡の笑いを生み出してしまう…ヤバすぎる作品なのだ。
そんな奇天烈な本作を作り上げたのが、主演・監督・脚本・製作総指揮を務めたトミー・ウィゾー。この映画の舞台裏をジェームズ・フランコが監督・主演で映画化した『ディザスター・アーティスト』(17)でも描かれていたように、ウィゾーは何で儲けているかは一切不明だが、とにかく莫大な金を持っている“謎の金持ち”として知られている。
本作の製作費も自腹で出したはいいのだが、情熱はあるものの映画作りにかんする知識や技術は0。彼が思うハリウッド流を貫いた結果、ロケでいいようなシーンをわざわざセットを立ててグリーンバックで撮影したり、人の意見を全く聞かず、スタッフを総入れ替えしたりという始末…。そんなハチャメチャな状況のため、無名キャストによる恋愛映画にもかかわらず、製作費が600万ドルにまで膨れ上がったというから驚きだ。
カルト映画と言えば、『ロッキー・ホラー・ショー』(75)のように、コスプレをした観客が集結して上映中にツッコミを入れたり、紙吹雪が舞ったりと特殊な鑑賞スタイルが定着することが多い。『ザ・ルーム』でもその傾向は顕著で、“スプーン上映”なるものがおなじみとなった。これは劇中で、意味もなく目立つスプーンの写真立てが現れたら、「スプーン!」と叫びながらプラスチック製のスプーンをスクリーンに向かって投げるというもの。さらに、ピントがずれたら「フォーカス!」とカメラマンを叱り、ラブシーンではスマホのライトを揺らして盛り上げるなどユニークで自由な鑑賞スタイルが次々と定番化した。
ちなみにこのスプーン上映、今回の日本上映でも実施予定とのこと。日時や方法についての詳しい情報は「未体験ゾーンの映画たち 2020」のホームページで確認して、全力でこの“最高の最低映画”を楽しんでいただきたい!
文/トライワークス
https://aoyama-theater.jp/feature/mitaiken2020