『小川の辺』の東山紀之と片岡愛之助「撮影中は犬猿の仲でした」
藤沢周平作品の中でも、秀作と名高い原作を映画化した『小川の辺』(7月8日公開)が完成。主演を務める東山紀之が共演の勝地涼、片岡愛之助、松原智恵子、藤竜也が篠原哲雄監督と共に登壇し、記者会見を行った。
海坂藩士・戌井朔之助(東山紀之)は、藩政を批判し脱藩した元藩士・佐久間森衛(片岡愛之助)を討て、との藩命を受ける。だが、朔之助にとって佐久間は実の妹・田鶴(菊地凛子)の夫。朔之助は、妹までも斬ってしまう事態を覚悟しながら、佐久間を討つための旅に出る。
主人公・朔太郎を演じた東山は、「撮影は昨年の9月中旬から1ヶ月半、山形の方たちをはじめ、東北の方たちにお世話になりました。東日本大震災で被災にあわれた方にも、僕らが心を一つにして、勇気をもってもらえたら幸いです」と挨拶した。朔太郎の親友・佐久間を演じたのは片岡愛之助。片岡は「この映画を見て、いろんな愛の形や絆を感じてもらいたい」と話し、東山との共演については、「殺陣のシーンの練習では、東山さんと合わせる時間があまりなかったのですが、東山さんは運動神経抜群ですぐに習得されて、ぱぱっと現場に入って来られた」と東山の力量に驚いだようだ。東山は「愛之助さんは先に稽古に入られていたので、このままでは負けるなと思いました。撮影中は犬猿の仲でした」と愛之助との関係を暴露。すると愛之助は、「お互い、役に入っているので、意識してるわけではありませんでしたが、撮影中はあまりお話しませんでした」とコメントを返した。撮影後は各地でのキャンペーンを共にしたふたり。東山は「言ってはいけないこともいっぱい(笑)」と、プライベートでは親交を深めたようだ。
朔太郎と旅をする新蔵を演じた勝地涼は、「日本人の凛とした強さを改めて感じました。言葉じゃなくて黙って見守るという、人を思いやることの大切さが伝わったら良いなと思います」と話した。母・以勢を演じた松原智恵子は、「自由に生きることが難しい時代に、たくましく生きる女性を演じました。今、自由に生きられない人が多くおられます。たくましく強く生きていく女性の姿を感じ取ってもらいたい」と被災者への思いを語り、朔太郎の父・忠左衛門を演じた藤竜也は、「私的生活では、40年父親をやっていますが、なかなか立派なお父さんだね、と言われたことはありません。役者という仕事のおかげで、実に素晴らしい立派なお父さんをやらせていただきました。役者冥利に尽きます」とユーモアあふれるコメントで笑いを誘った。
『山桜』(08)以来、東山と二度目のタッグを組んだ篠原哲雄監督は、「武士の姿を通して、苦難をどう乗り越えるか、その中で我々はどう幸せになるかを考えて作りました。昨今はCGをふんだんに使った映画も多くありますが、僕たちは原風景をちゃんと撮ろうと思いました」と、本作へのこだわりを話した。
東山の妹役・田鶴を演じた菊地凛子について東山は、「『バベル』(07)の印象が強く、エキセントリックな方なのかなと思っていましたが、素敵な女優さんでした。対決の日の撮影の日は僕の誕生日で、菊地さんが『誕生日イエイ!』と言ってくださり、僕もちょんまげ姿で『イエイ!』と答えました(笑)。ここ50年でアカデミー賞にノミネートされた日本の女優さんは彼女しかいないので、そういう意味も含めて、良い勝負ができたなと思っています」と、充実した共演になったようだ。監督も「東山さんと死闘を演じる場面では、すごく一生懸命やってくれて、死に物狂いとはこういうことかと思うような演技をしていただき、ふたりの気合が画面に出ていると思います」と映画の見どころを語った。
また、東山以外の出演者に、東山の印象についての質問があり、勝地は「新聞も何社も読んでいると聞いて、僕も東京に帰ってきてから新聞をとりました」と話し、松原は「東山さんはいつも立っていて、座っている姿をあまり見たことがない。画面を見ると美しくて、普段から気をつけてらっしゃるんだなと感心しました」とコメント。藤は「僕は正座が苦手だったんですが、そんな僕を心配してくれて、『僕も痛いです』なんて言いながらすっと立ち上がって悔しかった(笑)。あと顔が綺麗だね」とベテラン俳優も見とれてしまった様子。ほめ言葉の連打に、東山本人も「誰か俺のことけなしてれないかな(笑)。ありがたいです。これからも頑張ります」と照れ笑いを浮かべた。
藤沢作品の魅力について、東山は「家族愛が描かれていて、いろんな人たちとの出会いが縁となることの素晴らしさを描いている。震災によって自分も気付ていなかった感情を発見することがあった。ごくごく普通のちょっとの幸せを大切にしていきたいなと感じました」と家族に対する思いを明かした。
親友と実の妹を斬らなければならないという藩命を受けた主人公の過酷な運命、そして周囲の人々の心情が美しく描かれる『小川の辺』。東山の美しい侍姿は映画公開までしばしお待ちを!【取材・文/鈴木菜保美】