ジョニー・デップがベルリンでお披露目し話題となった“水俣病”映画とは?真田広之、浅野忠信も参加した『Minamata』
現地時間3月1日に閉幕したベルリン国際映画祭。ジョニー・デップがベルリン入りし、話題を振りまいた。彼がベルリンに持ってきた映画は『Minamata』(20)。設定は1971年の熊本県水俣市、汚染により水俣病を病んだ住民とチッソとの間で訴訟問題が起こっていた当時の現状を、アメリカ人フォト・ジャーナリストであるユージン・スミスがカメラに収めた時の逸話である。ジョニーは主演のユージン・スミスを演じるばかりでなく、自らこのテーマを選びプロデューサーとしてスタッフやキャストを集め、本作を完成させた。
「写真家にはとても興味がある。無名から巨匠までいろんな写真家を愛している。写真とはとある瞬間に生まれた偶然を捉える作業だと思う。そうやって生まれた写真に一番惹かれる」と写真に強い興味があることを明かした。
報道写真家としてマグナムの立ち上げにもかかわったユージン・スミスは、米ライフ誌のカメラマンとしても活躍し、世界二次大戦の戦場で撮影中に大やけどを負う負傷をした。ジャズと酒を愛した男で、世界各地の戦場や母国アメリカや、スペインやハイチの貧しい人々の生活を白黒写真に収め、写真史に刻印を刻んだ。映画を観た人は、白いひげをたくわえメガネをかけ、ユージンになり切ったジョニーの変身ぶりに驚く人もいた。しかし世代こそ異なれ、写真、音楽、ボヘミアンな生活を送ったユージンとジョニーは、以外に共通点が多いかもしれない。
そんなユージンの最後のプロジェクトが、水俣市の現状をレポートする写真で、妻のアイリーンさんとともに水俣で生活し撮影に取り組んだ。この映画はそこから生まれた名作「Tomoko Uemura in Her Bath」にインスピレーションを得ている。
「決して制作は簡単ではなかった。映画という媒体を使って、現実を世に知らせたかった。人びとに現実を知ってもらうだけでもうれしい。この映画がきっかけで人々がこれと似たような状況に注意を払うきっかけになればと思う」とジョニーは語った。
環境汚染問題は、日本だけでなく、世界中の問題。現在環境保護に対する関心が、今まで以上に盛り上がっているなか、タイムリーな作品と言えるだろう。真田広之、美波、岩瀬晶子、浅野忠信など、日本のキャストも流暢な英語で熱演が反響を生んだ。ベルリンで行われた記者会見には、ジョニーやアイリーン・スミスとともに、真田美波、岩瀬が参加。
真田は「子供の頃におぼろげにしか知らなかった水俣病の詳しい事情を知りショックを受けた。世界中の人に知ってもらいたかったし、同時にこれが日本に限った問題ではないことも重要だと思う」それぞれが、日本人としての本作に対する熱い思いを語った。またライフ誌の編集長役を英国俳優ビル・ナイが、そのアシスタントを人気オペラ歌手キャサリン・ジェンキンスが演じている。
ユージン・スミスは71年、撮影中にチッソの警備員によって怪我を負って以降体調が振るわず、1978年に59歳で他界した。妻のアイリーンさんは「水俣での生活が苦しいと思った事はありませんでした。何故なら周囲の人たちの生活のほうがずっと苦しかったからです。これはジーンが他界する前の最後のプロジェクトとなりました。写真を通して彼が今も生きていると思います」と語った。また監督でありアーチストであるアンドリュー・ラヴィタスは、「この映画はジョニーの情熱から発信されています。彼の熱い思いにスタッフ、キャスト全員が共感し一丸となって完成させました。世界中のいろんなところで似たような事件が起こっています。この映画がほんの少しでもそれを解決するための力添えになったらと願っています」
文/高野裕子