『悪魔のいけにえ』レザーフェイスはナイスガイ!? アイスランド初のホラー映画の監督を直撃

インタビュー

『悪魔のいけにえ』レザーフェイスはナイスガイ!? アイスランド初のホラー映画の監督を直撃

美しい北欧の国アイスランド。そのアイスランドから、首が飛び、血飛沫舞上がる初のホラー映画が誕生。タイトルは『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(公開中)。アイスランドは世界有数の捕鯨国であるが、その捕鯨問題をネタに! 強烈なブラックパロディ・ホラー映画に仕上がっている。来日したジュリアス・ケンプ監督とプロデューサーのイングヴァール・ソルダソンに話を聞いた。

ホエール・ウォッチングのために世界中から観光客が訪れるアイスランド、レイキャヴィク。いつものように出航する観光船だったが、不慮の事故により船長を失ってしまう。そこへやって来た家族経営の捕鯨船。捕鯨禁止の運動により失業していた一家は、観光客を逆恨み。血みどろの惨劇が展開することに。

捕鯨業とホエールウォッチング業の衝突という社会問題を、なぜ題材に選んだのか。率直な疑問を監督にぶつけてみた。「アイスランドの現状として、その問題があったからなんだ。10m離れたところで、ホエールウォッチングをする懐の温かい人もいれば、捕鯨ができなくなって非常に厳しい思いをしている人がいる。目の前にある現実で、殺人以外はみんな本当のことだよ(笑)」。

しかし、この物語は決して政治的な物語ではない。自分だけは助かろうと、本性をむき出しにする観光客側も十分に卑劣なキャラクターとして描かれる。「出てくる登場人物はみんな悪者(笑)。世の中、善人なんてそんなにいないからね。みんなダークな面を持っていて、そして死は誰にでも訪れる運命だということを伝えたかったんだ」。

大傑作ホラー『悪魔のいけにえ(=テキサス・チェーンソー・マサカー)』(74)から、タイトルの発想を得た本作。殺人鬼レザーフェイスを演じた俳優ガンナー・ハンセンが、唯一の“良い人”として登場する。プロデューサーは「良いタイトルを思いついたので、せっかくだからアイスランド出身のガンナーをアメリカから呼び戻してやろうと。『悪魔のいけにえ』ではガンナーは最高に恐いヤツ。だから今回は、彼を良いヤツとして描こうと思ってね」と微笑む。

さらに「彼は地球上で最も良い人の一人じゃないかと思うくらいのナイスガイ。今は文筆活動や大学で教師をしているんだ。美しい詩を書くんだよ」とホラー映画界のカリスマの素顔を暴露する。

すっかりガンナーの人間性にほれ込んでいるようで、彼のこととなると、ふたりとも嬉しそうに話が弾む。「ガンナーはスティーヴン・キングと仲が良くて、彼の子供と遊んであげることがあったらしい。それを見ていたスティーヴンは、一瞬レザーフェイスのフラッシュバック映像がよみがえって、『俺の息子に何をする!』って追い出しそうになったんだって!」とイングヴァールが明かすと、監督も大爆笑だった。

アイスランド初の本格ホラー映画。本国での反応はどうだったのだろう?  「一部の古い世代は、とても恐がって困惑していたのは事実。でも、ほとんどの若い世代がこのユーモアを理解してくれて、すごく嬉しかった。多くの若い脚本家たちがホラー映画のプロットを送ってきたり、短編を作ろうという動きも出てきている」と監督は語る。

プロデューサーも「新しい章が始まったと言えるんじゃないかな。アイスランドって、とても穏やかな国だから、ホラー映画が生まれることはあり得ないと言われていた。でも映画の世界は何でもありだからね」と、アイスランド映画界の活気を楽しみにしている様子で、ウィンクをして見せた。

2008年の金融危機から、経済状況はどん底のアイスランド。しかし今、かつてないほどにアートが盛んだという。こんな時こそ、パワフルな文化の誕生が国を元気にするのかもしれない。是非劇場で、そのパワーの一端を感じてみてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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