人生で一番美味しかった料理を巡って受刑者たちが繰り広げる妄想グルメバトルって?
料理ものの映画というと、人気コミックが原作の『美味しんぼ』(96)や、伊丹十三監督の『タンポポ』(85)、ラッセ・ハルストレム監督の『ショコラ』(00)だったりと、バリエーションは様々だが、主人公たちが料理を作ったり食べたりするものを思い浮かべるはず。しかし9月23日(金)から劇場公開される映画『極道めし』はちょっと違う。何とグルメものにもかかわらず、劇中の登場人物は料理はおろか食事すらしないのだ。
漫画家・土山しげるの代表作で、現在も漫画アクションに連載中の同名人気コミックを実写映画化した本作。とある刑務所の雑居房が物語の舞台なので、食事は受刑者が毎日口にする質素で地味な、刑務所めししか登場しない。これでグルメ映画になるの?と心配してしまうが、ここで重要なのは実際に登場する料理ではなく、彼らがこれまでに食べた飯の思い出となる。
食事以外に楽しみがない受刑者は、これまで生きてきて一番うまいと思った料理の思い出話を披露していく。もちろん、彼らはただ話をしているだけではなく、自らの話術をもって、いかに相手に“食べたい!”と思わせるかを競っている。そう、これは年に一度だけ食べられる胸躍る“正月のおせち料理”争奪戦なのだ。
ルールは簡単で、語り手の話に唾を飲み込み、ノドをごくりと鳴らしたら1点。一番点数を多く集めた人がみんなからおせちを一品ずつもらえるのだ。そのために彼らは母親が作ってくれた懐かしさと温かみのこもった料理だったり、家族と食卓を囲んで食べたスキヤキだったり、彼女が作ってくれたインスタントラーメンだったりと、決して豪華ではないものの、その料理への思いをたっぷりにめし自慢を展開していく。
それぞれのメニューは聞き手の頭の中で再現され、各々が胸を躍らせる。異色のグルメ映画でもあり、受刑者たちそれぞれの生き様も見えてくるヒューマンコメディでもある。空腹時にはちょっと目に毒な、彼らのめし自慢をまずは写真で堪能あれ。【トライワークス】