『ラスト・ターゲット』アントン・コービン監督「55歳を過ぎても好奇心と熱意で一杯だよ」
7月2日(土)より全国公開される『ラスト・ターゲット』はマーティン・ブースの小説「暗闇の蝶」をベースに、アントン・コービン監督がジョージ・クルーニーを主演に迎えて贈るサスペンス作品だ。オランダ出身のアントン・コービンは、写真家でもあり、『コントロール』(08)では2007年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール特別賞に輝いている。そんなアントン・コービンに本作や出演者に関する話を聞いた。
――どのような経緯で本作を監督することになったのでょうか?
「2008年に小説を脚色した脚本の第3稿を手に入れた。それを読み、プロデューサーに連絡を取ったところ、1990年に出版された原作が送られてきた。素晴らしい本だと思った。だからフォーカスが興味を持つ前から、私は既に関わっていたんだ。『コントロール』同様、一匹狼の話というのが好きでね。それに主人公は人生のあらゆる面を正当化していて、そういう内面に深く切り込んでいる点も気に入った。この男はこれまでの人生をずっと間違ってきたという認識がある。果たして人間は人生を変えられるのか。そういったテーマが好きなんだ」
――本作は雇われ暗殺者でガンマンの物語です。ご自身はカメラマンですが、写真家はガンマンに似ていますか?
「それではあまりに単純化しすぎだ。私はものを作り上げるが、銃ではものを殺してしまう」
――女性役にテクラとヴィオランテをキャスティングしたのはどういう経緯ですか。オランダ人のテクラとは知り合いだったんでしょうか?
「いや、彼女のことは『ヒットマンズ・レクイエム』で見ていたが、そんなに多くの作品を知っているわけではない。今回の役は誰もがやりたがる役だ。だからビッグネームの女優とも大勢会った。でもテクラに決まった。クララが優しい地元の女性という設定だけに、対照的にきりりとした国際的な女性である必要があった」
――ヴィオランテとはローマでのオーディションで会ったのですか?
「茶化したり大げさに言うのは好きじゃないが、ヴィオランテのようなイタリア人女優には会ったことがなかった。強い個性の持ち主だ。オーディションに二回とも遅れて来たが、すごく強烈なインパクトがあった」
――今回はあなたの作品にしては音楽が前面に出ていませんね
「確かにそうだね。だが、私の親友でもあり、『コントロール』には医師役で出演してくれたヘルバート・グリューネマイヤーが今回の音楽を作ってくれた。次回作には是非出演してほしいね。最終的なクレジットには、私が若い頃に聞いていたオランダの歌も入っている。私の映画では必ずオランダの歌を使っているんだ」
――本作の主人公を演じたジョージ・クルーニーに関してはいかがでしょうか?
「私は『コントロール』でイギリス人の俳優たちと仕事をし、彼らは素晴らしかった。けれど、私はヨーロッパやアメリカの俳優とも一緒に仕事をしたかった。だから私は、主人公がアメリカ人で、イタリアにいるというシチュエーションを考えた。この風変わりな響きのプロジェクトで、ハリウッドの最も偉大な俳優の一人であるジョージ・クルーニーが出演してくれるとはね。彼は無名の俳優ではなくスターだからね。ジョージが興味を持ってくれたことに私は驚いたし、まさか出演してくれるとは思わなかったよ。彼は本作のような陰のあるキャラクターを演じたことがなかったので、興味を持ってくれたようだった。ジョージは『フィクサー』や『シリアナ』で冷淡な役を演じたが、本作のようにこれほど無情で魅力のない役を演じたことはなかった。彼が闇の世界に生きる人物を体現してくれたのは、私にとって素晴らしいことだった。彼は抑えた演技でそれを表現した。本当に理想的な俳優だったよ」
――今後の展望を聞かせてください
「私は55歳を過ぎても、卵の殻を破って生まれ出たひよこのように好奇心と熱意で一杯だ。私は仕事が好きで、私の友人は全て成長途上で世界中に散らばっている。 カメラを持って面白い人々に会って、一杯の紅茶を飲んで家に帰る。そんな日常が最高だよ。これまでは個人の仕事が中心だったけど、今後は仲間たちと何かを仕掛けていくことを続けていきたいと考えているよ」
本作のメインの舞台はイタリア・アブルッツォ州ラクイラ県のカステル・デル・モンテ。石畳の美しいこの町をアントン・コービンはその手腕で非常に美しく、スタイリッシュな映像に仕上げて見せてくれる。ジョージ・クルーニーの演技はもちろんだが、こういうイタリアの美しい町並みを見るだけでも価値があるというもの。彼の回作は『ナイロビの蜂』(06)の原作者ジョン・ル・カレによるスパイ小説『A Most Wanted Man』(2012年公開予定)だ。【Movie Walker】