チェコアニメ界の鬼才ヤン・シュヴァンクマイエル監督の創造力の源とは?
アートアニメーションの巨匠として、本国のチェコやヨーロッパはもとより、ここ日本でも熱狂的なファンを持つヤン・シュヴァンクマイエル監督。現在、5年ぶりの長編映画『サヴァイヴィング ライフ 夢は第二の人生』が公開中だ。うだつのあがらない中年男性を主人公に、夢の中で出会った美しい女性の正体と、その夢の意味を探っていく過程を描いた本作。実写と写真をミックスさせた、独創的な切り絵アニメーションの手法で綴られる映像は、CGでは表現できないアナログな質感や、ユーモアにあふれている。そもそも最新作は、監督自身が見た夢がモチーフになっている。
「5年程前に、“これは映画にできそうだな”と思える夢を見たんです。ただその当時は“夢についての映画を撮る”とはっきり思っていたわけではなかったですね。私の場合は“夢についての映画を撮る”とか“人種差別についての映画を撮る”というような、事前にテーマを決めて映画を作ることはまずありません。たとえるなら反射板のように、“インスピレーション”という光を受けて、その光を作品にして反射させる。創作心というものは、無意識から出てくるものだと思います」。
映画の中で特に目を引くのが、俳優の写真をコラージュした切り絵アニメーション。当初、本作を全て実写で撮ろうとしていたそうだが、切り絵アニメを採用した。その理由は意外なところにあった。
「切り絵アニメーションを採用したのは、撮影にかかる諸経費を節約するためです。映画を完成させるために、撮影に一年を要しました。さらに撮影前には4ヶ月間、切り絵アニメーションの実験を重ねました。具体的には、出演者の全身と、手・足・首などの体のパーツをあらゆる角度から静止画に撮り、それらを切り取り、コラージュし、改めて映画用のカメラで1コマ、1コマ撮影していきました。そこでできあがった映像をその日のうちに編集して、スタッフと確認することを毎日繰り返してきました。困ったのは、必要な仕草の写真がなかったこと。同じ俳優に頼んで撮影し直すお金も時間の余裕もなかったので、スタッフの体のパーツで代用してみました。それが全く問題がなかったんですね。本編の中には私の手が写っているシーンもありますよ。実験期間中からかなりの時間と労力を費やしたので、クランクインした頃は“この手法で節約は無理だろう”と理解しました(笑)。それでも切り絵アニメーションという手法にこだわったのは、この手法が映画を神秘的な次元にまで高めてくれると信じていたからです」。
綿密な実験と苦労から生まれた本作を完成させ、現在は小説の執筆や、新作映画の準備を開始するなど、精力的に活動するシュヴァンクマイエル監督。オリジナリティにあふれる作品を生み出す監督のインスピレーションの源はどこにあるのだろう?
「もし芸術に何か意味があるとすれば、それはおそらく人間を教育するとか、善良にするというものではなく、あらゆるものから人間を“解放”するものなのだと思います。作品で観客を解放させたいのであれば、作った本人が自分自身を解放し、自由を感じないといけません。私の創作の源は、観客を解放し、自由な気持ちにさせるというところにあります」。
“自由”をキーワードに、作品を作り続けるシュヴァンクマイエル監督。アナログな質感から伝わるシュールかつユーモラスな世界観。既製のアニメや、映画とは一線を画す独創的な映像表現は、観客に驚きと自由を与えてくれることだろう。【トライワークス】
取材協力:チェコセンター東京 通訳:ホリー・ぺトル