『親愛なるきみへ』ラッセ・ハルストレム監督「映画はキャスティングが肝」
『きみに読む物語』などの恋愛小説家ニコラス・スパークスのベストセラー小説「きみを想う夜空に」の映画化作品『親愛なるきみへ』が9月23日(祝)より公開される。監督したのは、『ギルバート・グレイプ』(93)や『サイダーハウス・ルール』(99)など、繊細なドラマを綴ってきたラッセ・ハルストレム監督だ。そこで来日したハルストレム監督に、俳優陣から自然体の演技を引き出すコツについて聞いてみた。
『親愛なるきみへ』は、ドイツ駐在の特殊部隊兵士ジョンと、女子学生サバナが出会って恋に落ち、遠距離恋愛をするロマンスだ。ジョン役を『G.I.ジョー』(09)のチャニング・テイタムが、ヒロインのサヴァナ役を『マンマ・ミーア!』(08)、『クロエ』のアマンダ・サイフリッドがそれぞれ好演。ハルストレム監督はふたりから自然体の表情を引き出した。「僕は常々、俳優さんの持っている個性や性格をキャラクターに反映できるような環境作りを心がけている。現場では即興の演技を促したりするよ。そうすることで、良い意味で肩の力が抜けて、良い演技ができる。キャラクターに生命力が吹き込まれるんだ」。
ということは、キャスティング段階で、演じるキャラクターと共通する部分を持っている俳優を選ぶという意味か。「そう、キャスティングが肝だ。カメラというのは怖いもので、全てが映り、記録されてしまう。俳優さんの個性も写し取られてしまうからね」。続けて「監督として俳優に演技を押し付けることはできない」と言う。「俳優を操ることなんてできないんだ。演技は楽しくあるべきだし、そこで一息できる酸素がまずなければいけない。だから俳優を解き放つような形で、演技をしてもらうことが肝心だ」。
確かにチャニングもアマンダも、役柄にぴったりとマッチし、自由に動き回っているように見える。二人についても聞いてみた。「チャニングは俳優としての幅の広さに、柔軟さに非常に驚かされたよ。本当に知的で繊細なところがある。また、アマンダもとても素敵だった。オフビートな魅力とユーモアを持ち合わせていたよ」。
二人が雨の中でキスをするシーンが印象的だが、実は現場は蚊に悩まされて大変だったらしい。「今回ロケで、一番蚊が出た日だった。俳優が刺されてはいけないので、ネットを被ってもらい、撮影の寸前に取って撮影をしてたんだ。終わったら被る、その繰り返しだ。でも、ロケーションは素敵だったな。柱に彼が手をかけてキスをする構図は気に入ったよ」。
また、『ギルバート・グレイプ』では、知的障害者アーニー役をレオナルド・ディカプリオが演じて高く評価されたが、本作に登場する自閉症のアラン役は、実際に自閉症の少年ブレーデン・リードが演じている。彼の起用については「7、8歳の子役に、自閉症の役は演じられないんじゃないかと思ってね。また、ブレーデンが出演することで、共演者は何が起きるか分からないと思う。それが面白いんじゃないかと思ったんだ。実際に撮影はすごく楽しかったし、ご両親もすごく喜んでくれた。彼らが喜んだのは、僕たちがブレーデンに対して俳優の一人として接し、大人扱いしたことだ。彼と話し合いながら、シーンを作っていったんだが、彼は僕たちが思いつかないような動きを見せてくれたよ」。
いろんな俳優から、ナチュラルな表情を引き出す名手ラッセ・ハルストレム監督。10歳で既に短編映画を撮っていたというから、まさに産まれながらの映画監督である。そんな監督の人生にとって、映画とは?「人と出会ったり触れ合ったり癒されたりできるもの。小さい頃からの素敵な想い出が詰まったもの。それが映画だね」。『親愛なるきみへ』でも、その映画愛はいかんなく投影されている気がする。【取材・文/山崎伸子】