永瀬正敏『スマグラー』で感じた亡き師への思いと妻夫木聡への友情

インタビュー

永瀬正敏『スマグラー』で感じた亡き師への思いと妻夫木聡への友情

永瀬正敏が、『PARTY7』(00)以来、11年ぶりに石井克人監督作『スマグラー おまえの未来を運べ』(10月22日公開)に出演。永瀬が扮したのは、妻夫木聡扮するトホホな主人公・砧涼介の兄貴分的存在のジョー役だ。寡黙だが男気のあるジョーは、近年俳優としての深みを増してきた永瀬には打って付けの役どころ。そこで永瀬にインタビューしたら、石井組の魅力や、亡き相米慎二監督への思い、映画では初共演となった妻夫木聡との交流について語ってくれた。

原作は「闇金ウシジマくん」で知られる真鍋昌平の同名コミック。“スマグラー”とは依頼されたヤバイ“ブツ”を運ぶ裏社会の運び屋で、ジョーはこのスマグラーのリーダーだ。石井監督からは「どんといてください」とリクエストされたという。「石井監督は役柄の人物設計がすごく緻密なんです。前もって監督が、役者1人1人にキャラクターのイラストや、人物像、背景、監督が思うイメージなど、ヒントを書いたものをくれるんです。ジョーはこうでした。実は重病の妹がいて、その肉親は彼1人しかいない。ジョーは昔やんちゃで、組関係にもお世話になった。今は妹の治療費を工面するため、すごく稼がないといけない。その設定は原作にも映画にも一切出てこないんだけど、そういう気持ちを作って現場に行きました。すごく助かりましたね」。

妻夫木の他、松雪泰子、満島ひかり、安藤政信、阿部力、高嶋政宏、小日向文世と、脇の俳優陣の役柄はみんなかなり個性やアクが強い。永瀬が扮したジョーは決して派手ではないが、石井監督によるジョーの裏設定と、永瀬自身の人間性も相まって、実に懐の深いジョー像となった。永瀬もジョーについては「こういう人がいたら嬉しいなって思うような人です。砧やジジイ(我修院達也)にとっては水先案内人的な役回りの人で、映画では狂言回しでもあるし。また、自分にもそういう人がいれば良いなあと」。

そして永瀬は、今は亡き相米慎二についての思いを語った。「僕のデビュー作は相米慎二監督作(『ションベン・ライダー』) で。相米のオヤジが亡くなり、お骨を拾う時、柄本明さんから『永瀬くん、映画の先生、いなくなっちゃったよ』って言われたんです。まさに、そうだなと。あまり口数は多くないけど、後ろ姿で語れるような人。そういう人がいてくれればと」。

妻夫木は舞台挨拶で、永瀬がジョー役をやったことで、感情移入がしやすかったと言っていた。永瀬と妻夫木はCMでしか共演したことがなかったが、実は旧知の間柄だったそうだ。「妻夫木くんは彼がデビューして間もない頃から知ってます。彼はイケメンで甘い顔をしているけど、実物は骨っぽくてすごく男っぽいヤツなんです。チャラチャラしてないし、芯がちゃんとある。役へも男っぽいアプローチをする役者です。砧役は情けないところから成長して男に変わっていくという難しい役柄だけど、彼にぴったりだと思いました」。

ジョーが砧に言う「望まぬ日常に埋もれるカスになるな」という男前のセリフが印象的だ。「シビレますよね。ちゃんと説得力があるように言えてましたか(苦笑)。何度か出てくるので、そこに説得力がないとチャンチャンってなってしまう。説得力を持たせられるようなお芝居をしたいと思いました」。実際、このセリフは、どん底からはい上がろうとする砧はもちろん、見ている観客の胸の奥にしっかりとイカリを打ち込むのではないか。本作では、ますます円熟味を帯びていく俳優・永瀬正敏の“俳優力”を改めて実感した。【取材・文/山崎伸子】

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