『恋の罪』園子温監督「モテキはどうでもいい時に来る」

インタビュー

『恋の罪』園子温監督「モテキはどうでもいい時に来る」

奇才・園子温監督が、女の業をパワフルに映し出した野心作『恋の罪』がいよいよ11月12日(土)より公開される。近作では『冷たい熱帯魚』(10)が国内外で高く評価され、『ヒミズ』(2012年1月14日公開)では、染谷将太と二階堂ふみをヴェネチア国際映画祭の最優秀新人俳優賞に導いた。カンヌ国際映画祭に出品した『恋の罪』も、水野美紀ら女優陣の熱演が話題だ。園監督が俳優陣から熱演を引き出す秘訣とは? また、国際的な評価をどう感じているのか、園監督に今の心境を聞いてみた。

園監督が、1990年代に渋谷のラブホテル街で起きた猟奇殺人事件からインスパイアされて撮ったという本作。「パッと見はセックスの話なんだけど、行き着くところはセックスじゃなく、セックスを通して女自体を描きたかった」という園監督は、今回、男性目線で女を語らないように気をつけたという。「僕が女性に抱くエロティシズムを描いたわけじゃない。だから、男が勝手に思うロマンティシズムや妄想のシーンは排除しました。男目線じゃなく、女と同化するつもりで脚本を書いたんです。僕はもともと中性的で、女性の心理が半分くらいわかるところがあるので」。

事件を追う刑事・吉田和子役に水野美紀、自我に目覚める清楚な主婦・菊池いずみ役に神楽坂恵、エリート教授・尾沢美津子役に冨樫真が扮する。「水野美紀さんはスターだから、映画の1つの顔になるし、彼女は刑事役にもなじみがあるので、観客が最も共感できる役をやってもらおうと思いました。他のふたりの役は普通じゃないけど、彼女の目を通すと見やすくなると思ったんです。神楽坂さんは『冷たい熱帯魚』で発掘して、今度もっと大きな役で勝負してほしかったからいずみ役に。冨樫さんはオーディションで、まさに彼女が律子だと思って選びました」。

神楽坂と園監督は先日婚約をしたが、現場でのふたりは常に体育会系のコーチと選手のような関係だったという。「前作では新人だったので、野球で言えば千本ノックをやったけど、今回はさらに厳しく万本ノックをしました。前回が地獄のリハーサルなら、今回は最底辺の地獄でのリハーサルでしたね」。園監督による新人女優しごきは有名だが、『紀子の食卓』(06)の吉高由里子や、『愛のむきだし』(09)の満島ひかりなど、その恩恵を受けて躍進した女優は数多い。「自分の可能性はまだまだあると思ってくれる人じゃないと、一緒に仕事をしていても楽しくないんです。前作で見たような芝居を再現してもらっても仕方がないし、監督のやり甲斐がない。どうせなら新しいものを見たいから」。

本作で、女性を描いてみて、何か発見はあったのだろうか。「女性賛歌の映画だけど、女性について発見するための映画ではないんです。ある意味、描き方は昆虫の観察日記に近い。とんでもないことをやらかしても、昆虫は昆虫だから、理解しようなんてことは所詮無理で。強引な理解をして、わかったようなシーンを入れるような映画は好きじゃない。何かを美化したり、嘘をついたりするとわかるし」。

毎年高まっていく海外での評価についても聞いてみた。「僕はもう20年くらい映画を撮ってきて、評価されない時代も長かったので、別にいつもと変わらないです。初期の頃の方が売れたいという野心があり、不安もあったけど、面白いことばかり考えていたかもしれない。今は逆で、昔よりも素直になってきた気がします。でも、自分の人生っていつもそうで、モテたい時にはモテなくて、どうでも良い時にモテキが来る」。ってことは、今はモテキ!?と聞くと「映画においてはね」と苦笑い。「今はどうでも良いけど、ただ俳優が賞を獲ってくれるのはやっぱり嬉しい」。そう、役者をとことん鍛え上げるのも、詰まるところ、役者への愛があるからだ。本作でも、園監督の采配で女優陣は最大限のものを発揮しているので乞うご期待。【取材・文/山崎伸子】

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