『ニーチェの馬』の鬼才タル・ベーラ監督、今の米映画業界にもの申す!
第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞と国際批評家連盟賞をW受賞した『ニーチェの馬』のタル・ベーラ監督が来日、11月22日に駐日ハンガリー共和国大使館で記者会見を開いた。ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サント、ブラッド・ピットら世界の映画人が熱狂するハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督が、本作を「最後の作品」とした理由とは?
ドイツの哲学者ニーチェの逸話からインスパイアされて生まれたという本作は、第84回アカデミー賞外国語映画賞のハンガリー映画代表作品でもある。これほどまでに賞賛を浴びながら、本当に監督を引退してしまうのか?と尋ねると、監督は「その質問は、もう聞き飽きたよ」と苦笑い。「私は34年間、映画を作り続けてきた。人間を理解しようと、人生により近づこうとした。今回、本作に入る前に、これが最後になると思った。今までの作品は、全て自分から来たものだが、それは深遠なものだった。それをまた模倣すると、チープで醜い作品になる。言いたかったことはもう全て語ったと思う」。
最後になると決めた背景には、今の映画界の状況も関連しているようだ。「自分自身、世界の状況、映画の状況については、強い意見を持っている。この前、ロスにいた時、映画はショービジネスの一部であるとみんなが信じていると思った。でも、自分はそうは思わない。映画とは第七芸術だと思う。観客はもっと知的で賢いよ。アメリカはベストを尽くして作品を作らなければいけない」と、ハリウッド映画について警鐘を鳴らす。
では、気になる監督の今後は?「自分は今でもフィルムメーカーだ。だから、プロデューサーとして、若手作家や経験者を含め、今、映画を作る場がない方を助けていきたい。プロデューサーとは、辛い状況の中で、弱い立場の監督に傘をさして、映画を作れるように監督を守っていく存在だと思う。映画の撮り方を教えるわけではない。ただ、若い人たちと仕事をして、いかに映画という仕事が色彩豊かであるかを伝えたい。彼らに勇気を持って、妥協せずに自分を表現していってほしいと思う」。
熱き映像作家・タル・ベーラ監督の心からの激励は、きっと多くの若い作家たちを力づけてくれたに違いない。今後のプロデューサーとしてのタル・ベーラの動向からも目が離せないが、その前に、タル・ベーラ哲学が貫かれた唯一無二の映像美を大スクリーンで堪能したい。【取材・文/山崎伸子】