アラフォー修道女の純情と更年期を爽やかに描いた新進監督に注目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アラフォー修道女の純情と更年期を爽やかに描いた新進監督に注目

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アラフォー修道女の純情と更年期を爽やかに描いた新進監督に注目

短編映画『大地を叩く女』(07)で、ゆうばり国際映画祭の2008年度オフシアター部門のグランプリを受賞した井上都紀監督が、『不惑のアダージョ』(11月26日公開)で長編監督デビューを果たす。本作の主人公は、生真面目なアラフォーの修道女。未知で一見描くことがタブーに思える修道院の世界と、更年期という繊細な問題を扱いつつも、ヒロインを実にみずみずしく映し出した本作。メガホンをとった井上監督の才に注目したい。 

規律正しく、平和な日々を過ごしてきた修道女・真梨子に、人よりも早い更年期が訪れる。気分がふさぐ中、ある日、バレエ教室のピアノ伴奏を頼まれた彼女は、教室で美しく舞うバレエ教師の男性の姿を見て、今まで感じたことのないときめきを感じる。そして、初めて妊娠や出産、親孝行といった俗世の人々の生き方に思いを馳せていく。

『大地を叩く女』のGRACEに続き、今回も柴草玲というアーティストを主人公に迎えた井上監督は、アラフォー女優から揺れ動く心のざわめきを引き出した。特に本作では、あまり知られていない修道女の日常にスポットを当て、更年期障害や性についても真摯に向き合っていく。正直、最初は地味な修道女にしか見えなかった柴草だが、ある瞬間から内面が魅惑的に光り出す。特に、あるシーンでは、女としての純情がクローズアップされ、柴草はうっとりするほど美しい表情を見せる。

演技経験の少ない柴草だが、修道女の魂の清らかさや純真さと共に、女としての赤裸々な葛藤をも体現した。彼女の潜在的な能力はもとより、それを引き出した井上監督の演出力が素晴らしい。また、劇場公開作品の長編第1作目で、こんなにチャレンジングなテーマに挑んだこと自体に最初は驚いたが、ふたを開けてみたら、本作の着地点が誰もが共感できる人間ドラマとなっていた点も新鮮だった。

映画を見ている時はいろんな思いに心をかき乱されつつも、見終わった後はなぜか春風のように爽やかな余韻を感じた『不惑のアダージョ』。また、劇中のバレエシーンも秀逸で、真梨子同様、その華やかな美しさに魅せられそうだ。力のある井上監督の記念すべき長編デビュー作は、じっくりと細部まで味わいたい。【文/山崎伸子】

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