もし人類が五感を失ってしまったら、食事の風景はどう変わるのか?
食べることの喜び。それは味覚だけでなく、視覚や嗅覚といった五感の全てが刺激されて得られるものだ。もし仮に、人類の五感が徐々に失われていくことがあるとすれば、日々の食事の風景も様変わりしてしまうだろう。現在公開中のSF映画『パーフェクト・センス』は、思わずそんなことを考えたくなる作品だ。
奇病の蔓延により、人々が少しずつ五感を失っていく恐怖を描いた同作は、ユアン・マクレガー演じる主人公の職業がシェフだということもあって、食にまつわる描写が多いのが特徴だ。前代未聞の危機のなか、主人公が勤務するレストランは何とか営業を続けていくのだが、五感の一部を失った客たちに合わせ、提供する料理に工夫を凝らしていく様が実に興味深い。
劇中で、人類は最初に嗅覚を失ってしまう。これに対しレストランのオーナーは、味付け自体を濃くすることで、味覚に直接訴えるような料理を考案。だが、次に人類は味覚を失う。レストランにとっては致命的な事件のはずだが、食感や食べる際の音に特化したメニューを考案することで廃業の危機を乗り越えていく。ところが、さらに人類は聴覚まで失ってしまう。こうなったらもう営業どころではない気もするが、レストランは色とりどりの食材を使うことで、見た目に華やかな料理を提供し続けるのだ。
もちろん、本作は食をメインテーマにした作品ではなく、むしろ終わりゆく世界を舞台にしたラブストーリーだ。しかし、本筋とは関係のない食にまつわる描写をこれだけ細かく行うというのは、SF映画としての完成度の高さを物語っていると言っても良いだろう。是非、主演のユアン・マクレガーの好演と共に、危機的状況下における食の描写にも注目して楽しんでいただきたい。【トライワークス】
作品情報へ