『東京プレイボーイクラブ』で臼田あさ美「めちゃくちゃだけど、がむしゃらな姿って愛おしい」
24歳の新人監督・奥田庸介が大森南朋、光石研、臼田あさ美ら実力派を迎えて撮り上げた『東京プレイボーイクラブ』が2月4日(土)より公開を迎える。舞台は半端ものたちが集まる場末のクラブ。行き当たりばったりにトラブルに巻き込まれていく男女の姿を、強烈なパワーをもって描き出す。
バイオレンスに満ちた作品にあって、儚げながら凛とした存在感で目を引くのが臼田あさ美だ。話を聞くと「エネルギッシュで、勢いのある映画で!」と目を輝かせる。なかでも魅力的に感じたのは、勢いの中から垣間見える人間の感情だという。「自分の心情を語る人物は誰もいない。それなのに、ぐらぐらと揺れ動いている感情がものすごく伝わってくるんです」。
演じたエリ子役は、極端にセリフの少ない役どころだ。「エリ子は過去も、どうしてこういう状況になったのかもほとんど描かれていない。バイトもすぐクビになっちゃうし、もどかしい生き方をしている女の子。大森さん演じた勝利にしろ、がむしゃらに生きているけど、どうにもうまくいかないというもどかしさは、誰しもが共感できるところなんじゃないかな」。
どのように役作りに挑んだのだろうか? 「私も感情をむき出しにする方ではないので、彼女の生き方に共感はできたんですが、当初もらった台本にはほとんどセリフが書かれていなくて(笑)。何も語らない演技がどれくらい難しいのか、撮影前は不安でいっぱいでした。でも現場に入ってみると、大森さんと光石さんがものすごいスイッチを持って芝居をするので! おふたりを見ているだけで、『あ!エリ子ってこれだ!』って、彼女の気持ちがすっと自分の中に入って来たんです」。
その感覚は全く新しいものだったという。「頭で考えずに、感覚で役柄に近づけたと思ったのは初めての経験。そこにいるだけで気持ちがブワってあふれてくる。エリ子が、ただそこにいて、周りをじっと見ている人だからこそ、私も周りの空気を吸い込んで、役になれた気がします」。
年下の奥田監督の印象を聞いてみた。「風貌はBボーイ風なんですが(笑)。話す内容は腰が低くてすごく丁寧。そのギャップが面白かったです。そして、この映画に賭ける気合いと熱量が尋常じゃなかった。自分の中に“譲れない”というものを持っている監督」。
その熱さを強く感じたエピソードを明かしてくれた。「撮影の前から『絶対に損はさせないし、“エリ子役をやって良かった”って絶対に言わせるから!』って。高揚し過ぎちゃったりもするので、大森さんが『まあまあ』って監督をなだめたりして(笑)。そのバランスがすごく良いし、光石さんはいるだけで面白いし(笑)。とにかく楽しくて仕方がない現場でした」。
監督は、撮影中に38度の発熱をしてしまったそう! 「もう、小学生みたいで(笑)。勢いがあり余っちゃったのか、子供の知恵熱みたいなもので。ちょっと可愛らしいですよね。この映画の、めちゃくちゃなところもあるけれど、がむしゃらに生きている様って、愛おしいという感じは、監督自身に重なります。その熱がみんなの背中を押して、作品が出来上がった気がしています」。
映画ラストに流れるのは、エレファントカシマシの名曲「パワー・イン・ザ・ワールド」。監督は「死ぬまで走るんだ!」と叫ぶ、この曲にインスパイアを受けて脚本を書き上げた。自身のパワーとなるものは? 「人のエネルギーに突き動かされますね。今回は監督の熱さに『私も負けないぞ!』と思ったし、私を選んでくれた監督には絶対に損はさせたくないって気合いが入りました」。
常に新しい現場で多くの人々とのつながりを持たなければならない女優業。「たくさんの人とワイワイするのが不得意な自分にとっては、大変なことばかり」と話す。「でも今回の現場で、役柄は自分だけで作るものじゃない。監督や共演者の方とコミュニケーションをとって生まれたものがたくさんあるし、人と関わっている、つながっている意識をすごく感じて。その意識はこれからの自分の武器にしたいです。それに、大変だと思って落ち込んでも、まだまだ止めない自分がいるということは、まだまだやりたい!っていうことですから」。
ふわりとした笑顔の中に、女優としての強さがきらりと光る。奥田監督のパワーあふれる若き才能、新たな武器を手にした女優・臼田あさ美を是非スクリーンで確認してもらいたい。【取材・文/成田おり枝】