『ベンジャミン・バトン〜』今までのフィンチャー作品と違う?
デビッド・フィンチャー監督と言えば、『セブン』(95)を筆頭にスタイリッシュでダーク、何度もテイクを重ねる完璧主義なイメージだ。取材をする前は、“堅物”なのかなと思っていたが、会ってみると意外に物腰が柔らかく、握手したときの手がえらくゴツかったのが印象的だ。取材時間はわずか10分(!)。すぐに着席、質問を浴びせる。
ブラッド・ピットと組んだ3作目となる『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』では驚くほどヒューマンな面が描かれている。ひょっとして今までの作品と異なる取り組みをしたのかどうかを本人に訊いてみた。
監督「例えば、『ゾディアック』(07)は連続殺人や有名な連続殺人者の話ではなくて、絶対に逮捕されない悪い奴がいるとわかっている中で、人々の正義感をどういう形で満足させられるかという物語なんだ。『パニック・ルーム』(02)はB級スリラーであって、時計の音が鳴ったり、犯人が出たり入ったり近づいてきたり、というような物語だよね。それぞれ物語に合わせて、いろいろな形の描き方があるんだよ」
アプローチやスタイルは変えていない、ただ話が違うだけということのようだ。本作の主人公は“80歳で生まれ若返っていく男”だが、演出のポイントはどこだったのだろうか。
監督「今回はひとりの男の一生で、登場人物の会話にとても大きな意味があった。眠れない女性(ティルダ・スウィントン)が出てくるけど、(ベンジャミンが)どうやって時を埋めていくかという人との関わりを描くことに自分としては興味があったんだ」と語ってくれた。逆行していく人生を送る主人公なので、人と接する時間が普通の感覚では進まない。老いた体で生まれ、日ごとに若くなっていく過程で、時間感覚に着目して観ると一層映画を堪能できるだろう。
フィンチャー監督は、第81回アカデミー賞で監督としても初選出されている。だが、たとえノミネートされていなかったとしても、この胸に迫る作品をスクリーンで観ないわけにはいかない。心して観よう。【MovieWalker/堀田正幸】