『最高の人生をあなたと』のジュリー・ガヴラス監督「老いは普遍的なテーマです」
結婚30年を経て、孫も生まれた夫婦が60歳を前に立ち止まって人生を見つめ直す姿をほろ苦く描き出した『最高の人生をあなたと』が2月4日(土)より公開されている。本作のメガホンを取ったのは、ギリシアの名匠コスタ=ガヴラスを父に持つ『ぜんぶ、フィデルのせい』(08)のジュリー・ガヴラス監督だ。脚本も同時に務めた彼女に話を聞いた。
――お父さん、そしてジャック・ロノ監督から映画監督をするに当たって、どのような影響を受けているのでしょうか?
「父は、映画は重要な社会、政治問題を扱うべきだと私に教えました。映画には意味と信念が必要だと。ジャックからの影響は全く異なります。私が助監督として参加した彼の作品は、全員素人の役者で撮影されました。そして、ジャックと一緒に4ヶ月間のリハーサルに参加したのです。そこで得た貴重なレッスンとは、我慢強さ、心理学、演出、自分が欲しているものは何か明確にわかっていながら、それを直接伝えずに彼らに自ら発見させることなどです」
――監督自身が考える60歳以降の夫婦の素敵な過ごし方とはどんなものでしょう?
「年齢を重ねるごとに心地良い関係を構築できると良いと思いますね」
――主演のふたり、イザベラもウィリアムも脚本が素晴らしかったとほめています。監督がこの脚本を書くに当たって最も気を配ったことはどんな点でしょうか?
「脚本を書く時は、いつも登場人物に一番注意を払っています。キャラクターには深みと力強さ、そして欠点が必要です。往々にして私は欠点に興味を惹かれます。それこそが彼らを人間らしくする要素ですから。メアリーとアダムに関していえば、私自身の家族から大きく影響を受けています。私の母はいつも家族全員に気を配っていて、まさにメアリーがそうであるように、特に夫の世話を焼いています。また、私の父はアダムのように素晴らしいアーティストですが、現実的な事柄や家族のことにはあまり関与しておらず、いつも仕事に没頭しています。私の家族は主人公ふたりを描くための大きなインスピレーションになりました」
――老いは誰にでも訪れるものです。監督は老いをどのようにとらえていますか?
「日本での事情はわかりませんが、フランスではとかく若さが称賛され、老いはネガティブにとらえられがちです。私にとってそれはとても興味深い事象でした。ただでさえ老いると様々な不都合が生じますが、さらに周囲から否定されていると感じるのはとても辛いことです。老いについての私個人の経験はこうです。もちろん、本作の登場人物よりずっと私は若いのですが、数ヶ月前に私は40歳になりました。そして、もう20歳の頃には決して戻ることはないのだということを考えた時、あらゆる意味で今までより心地良く感じたのです。ですから60歳になる時も、より気分よく迎えることができたら良いと思っています」
――本作はロマンティックコメディというジャンルですが、今後監督はどんなジャンルの作品を撮りたいですか?
「今、取りかかっている次の作品は、ヨーロッパについての風刺ロマンスで、ヨーロッパそのものと、ヨーロッパ風であること、がテーマです。私と同世代のキャラクターが複数登場しますが、そこにはちょっと仕掛けがあります。というのも物語の舞台が1990年代終わりから2000年初頭なので」
――最後に本作を楽しみに待つ日本のファンへメッセージをお願いします
「老いについては皆、同じ立場にいると思います。老いは死に近づきつつあることを意味しますから。だから私たちは皆、老いを恐れているのです。そして若さを軸にする我々の社会では、老いは状況の悪化を意味します。この映画のテーマは、老いや夫婦、家族関係に楽観的な視点を持つことにあります。そして、それはとても普遍的なテーマだと思います。日本の皆さんもこの普遍的なテーマを是非お楽しみください」【Movie Walker】