『はやぶさ』の渡辺謙、結果を出すリーダーにプロ野球界のあの人を挙げる
時代を切り開くリーダーが求められる今、『はやぶさ 遥かなる帰還』(2月10日公開)で渡辺謙が演じるプロジェクトマネージャー・山口駿一郎教授は、ちょっとひと癖あるが、実に魅力的なリーダーだ。モデルとなったのは、はやぶさプロジェクトを成功に導いた川口淳一郎教授。渡辺は本作で、主演俳優の他、役柄と同じく“プロジェクトマネージャー”とクレジットされている点にも注目したい。渡辺にインタビューし、リーダーの資質について話を聞いた。
小惑星探査機はやぶさは、様々な困難を乗り越え、小惑星イトカワから無事に岩石サンプルを持ち帰るという世界初のミッションを成し遂げた。脚本段階から関わった渡辺は、劇中だけでなく、撮影以外の時間もプロジェクトマネージャーとして関わった。「最初は、エグゼクティブプロデューサーみたいな形でお引き受けしたんです。それで撮影が進むにつれて、川口先生はじめJAXAの方々が、プロジェクトそのものだけではなく、どういうことを未来に投げかけられるかってことをきっちり示されていた。役職名からいくと、半分シャレみたいな感じですが、川口さんと、この映画を通してのプロジェクトマネージャーというのが、最終的に上手くにじんでいくような形にしたいと思いました」。
現場への取り組み方も、一俳優としての立ち位置とは異なっていた。「非常に限られた時間の中で、全員が全力を出し切れるかってことがとても大事でした。だから、全キャストの精神的なメンテナンスも含めて考えました。管制室や運用室の中だけではなく、映画そのものがもっと膨らんでいけるような流れを作っていきたくて。また、川口先生が試写をご覧いただいた後にメールをくださって、先生もどう宣伝していくか同じ思いでいてくださったことがわかりました。変な言い方だけど、僕らが寄って行ったつもりだったのに、向こうも寄って来てくださったというか」。
渡辺が演じた山口は、いわゆる熱血漢ではなく、どこかクールな目線を持つ個性的なリーダーだ。山口のリーダーシップについて、渡辺はこう説く。「目標の設定値がかなり高いところにあると、ただ協力し合うだけでは到底たどりつけないと思うんです。今回は、個々のアイデアや開発能力を150%くらい要求しなければいけなくて。しかも、彼自身がきちんと相手と渡り合える知識を持っていることが必要でした。本当にとんでもない人だと思います」。
では、山口のようなリーダーは周りにいるのだろうか? 渡辺に聞いたら、元中日ドラゴンズの落合博満監督を例に挙げた。「落合さんはメディアやファンを敵に回そうが、勝つってことだけに特化していったんです。彼はチームもファンもこうあるべきだってことを、明らかにバッと崩し、チームを身近で見て判断していきました。もしも、それで成績が落ちていったら彼は糾弾されるべきだけど、ちゃんと成果を残しましたよね。そうすると、やっぱり正しいよねってなるんです。ある意味、現場至上主義みたいなところがあるんじゃないかと」。
劇中の山口のように、リーダーは時にはリスクを冒して賭けに出ることも必要だ。そのリスクヘッジについて渡辺は、「思いが勝つかどうかってことなんです」と言う。「まず、夢があれば、そこにリスクが生まれるのは当たり前で。だって、誰もやったことがないんだから。でも、リスクがあるからどうしようってことじゃなく、この夢を叶えるためにそれを乗り越えるんだというプロセスがあれば、リスクってのはただ単にハードルなだけなんです。全然、壁じゃない。映画作りもそうで、『これは当たらない』って真っ先に言ってしまうこと自体が問題で、その前に『なぜ、俺はこれがやりたかったのか』という強い思いがあれば、じゃあリスクを超えようって話になるんです」。
なるほど、詰まるところ、大事なのは信念か。渡辺扮するプロジェクトマネージャーの下で完成した『はやぶさ 遥かなる帰還』からは、物語同様にチームの一体感と達成感が感じられる。今、話を聞いて、劇中の山口と、俳優・渡辺謙のポジションがまさにシンクロした。【取材・文/山崎伸子 撮影/加藤義一】