18禁でも実はそんなに過激じゃない!? セックス依存症を通して現代社会の虚無感を描いた映画とは

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18禁でも実はそんなに過激じゃない!? セックス依存症を通して現代社会の虚無感を描いた映画とは

2011年のヴェネツィア国際映画祭で上映された作品の一つに、劇中の性描写があまりにも過激だということで物議を醸した映画がある。日本でも3月10日(土)より公開されるその作品は『SHAME シェイム』。各国で最上級の規制がかかり、日本でも修正ありのR18レイティングですら公開が危ぶまれた、となかなか扇情的な文句が目につく同作だが、実際に作品を鑑賞してみると、それほど過激さは目につかないことがわかる。そう、この映画はセンセーショナルな扱いとは裏腹に、むしろ現代人が抱える虚無感を描いたシリアスな作品なのだ。

本作の主人公は有能なビジネスマンであるブランドン。壮年にしてそれなりの地位と財力を手に入れた彼の生活は、一見すると何の問題もないように見える。しかし、彼は仕事以外の全ての時間をセックスと自慰とポルノ鑑賞に費やしてしまうほどのセックス中毒者だった。ある日、そんなブランドンのもとに、彼の妹シシーが現れる。自傷癖のある彼女は「恋人に捨てられたからしばらく泊めてほしい」と言って、強引に押しかけてきたのだ。この日を境に、歪みを抱えながらも安定していたブランドンの生活は、ゆっくりとその均衡を失っていく。

誰彼構わず女に手を出し、浴室ではシャワーを浴びながら自慰にふけり、暇さえあれば常にPCでポルノ鑑賞と、確かに刺激的なシーンは含まれている。だが、静けさに包まれた部屋に響くポルノ動画のあえぎ声は、もはや虚しいものにしか感じられない。そして、全く不自由のない生活を送りながらも、苛立ちと漠然とした虚無感を抱えているブランドンの姿は、成熟した社会を生きる私たちの姿と重なる部分が多いように感じられる。ブランドンのように、他人をセックスの対象としてだけ考えてドライに生きていくことは、その虚無感から目を逸らすための処世術の一つと理解できるだろう。なぜなら、他人に期待しなければ、決して裏切られることもないからだ。そのため、心から他人の愛情を求める激情さを持ったシシーの登場は、ブランドンをひどく困惑させてしまう。普通であれば、シシーのような存在はポジティブな意味を持つところだが、少なくともブランドンにとっては、日常をやり過ごすために忘れていたものを思い出させるリスクでしかないのだ。

この兄妹がどのような結末をたどるのか、それは劇場で確かめていただきたいが、いずれにせよ、本作は現代社会の病理を巧みに表現した作品と言えるだろう。いくらマイケル・ファスベンダーとキャリー・マリガンがオールヌードを披露しているとはいえ、ムラムラした気持ちで見る人には期待外れとなるかもしれないが、私たちが多かれ少なかれ抱えている哀しみを描いた内容にこそ注目してみてもらいたい。【トライワークス】

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