メリル・ストリープが語る、歳をとることが素敵な理由
第84回アカデミー主演女優賞受賞作『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(3月16日公開)で、来日したメリル・ストリープにインタビュー。アカデミー賞にノミネートされること最多17回目、『クレイマー、クレイマー』(79)で助演女優賞、『ソフィーの選択』(82)で主演女優賞、そして本作で3体目のオスカー像を手にしたメリルは、世界が認める名女優だ。インタビューでは、歳を重ねることについて素敵な価値観を語ってくれた。
保守的で有無を言わせない強硬な政治方針から、“鉄の女”という異名をとったイギリス初の女性首相マーガレット・サッチャー。劇中では、若き時代のサッチャーから、認知症を患った晩年の姿までが回想形式で描かれる。若い頃から勝気で、既に鉄の女としての片鱗を見せていたサッチャーが、「私は食器を洗って一生を送りたくない」と言い切るシーンが印象的だ。でも、メリルはそんな若きサッチャーをやんわりと諭す。「お母さんみたいになりたくないって言えるのは、23歳の女の子だからよ。それは若さゆえに出る言葉だと思うわ」。
メリルはこう続ける。「若い頃は、誰しも傲慢なところがあるの。でも、年をとってくると、お茶碗を洗うことすらも、生きていることの証だと思うようになっていくわ。鳥の声や遊んでいる子供の声を聞く、それだけで美しいことだと思えるの。年をとると利口になるというか、独断的に物事を決めるのではなく、美を見出す知恵が出るの。若い人にはわかってもらえないと思うけど」。
映画の終盤では、その価値観がスクリーンに反映されていく。「最後の方では、そこのステージが描かれているの。それまでの彼女は未来に向かってバリバリと働いてきた。でも、今は夫を失い、一人でお茶碗を洗ったり、周りの雰囲気を見たりして、それらの美しさを感じているの。私は、その状況の人間を描きたかったの」。
メリルは、年を重ねることは素晴らしいことだと語る。「歳をとることは経験を積み、リッチになれることだと私は思っているわ。でも、問題は、映画界から『そういうあなたを見たくない』って言われてしまうところね(苦笑)。もちろん、そこはマイナスだけど、人間的に見れば、年を重ねていろんなことを経験していくのは良いことだと思うわ。年をとった人の白髪やシワ一つとっても、その後ろに何かがあるってことを考えさせられるの。そこには幸せも不幸せもあるんだけど、私はその後ろにある人生を見るのが好きよ。だから、私も監督も、地下鉄やバスに乗って人を見ることが好きなのよ」。
理想の年の重ね方をしてきたからこそ、一言一句に重みと深みがある。女優としても、一人の女性としても、メリルはまさに円熟期を迎えている気がする。メリルが演じたからこそ、サッチャーの知られざる女としての悲喜こもごもも浮き彫りにされた本作。色々なテーマを内包した含蓄のある人間ドラマである。【取材・文/山崎伸子】