メリル・ストリープをオスカーに導いたフィリダ・ロイド監督「メリルはここが違う!」

インタビュー

メリル・ストリープをオスカーに導いたフィリダ・ロイド監督「メリルはここが違う!」

メリル・ストリープを3度目のアカデミー賞に導いた『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(3月16日公開)のフィリダ・ロイド監督にインタビュー。『マンマ・ミーア!』(08)に続いて、メリルと2度目のタッグを組んだ彼女は、メリルが主演女優賞に選ばれた瞬間、「わーー!!と感激しすぎて言葉にならなかったわ」と喜びを語った。メリルの盟友でもあるロイド監督に、彼女のプロ意識の高さについて聞いた。

第84回アカデミー賞授賞式の前夜、ロイド監督はメリルと会って、賞について話したそうだ。「受賞してもしなくても、全然関係ないよね。だって私たちは、本当に作りたい映画を作ったのだから、そのことが一番大事だよねってお互いに言い合ったの。でもね、実際にメリルが受賞した後では、ふたりとも言ってることが変わって、大喜びしたのよ(笑)」。

メリルは、アカデミー賞にノミネートされること最多17回。『クレイマー、クレイマー』(79)で助演女優賞、『ソフィーの選択』(82)で主演女優賞を受賞しており、今回で3度目のアカデミー賞獲得となった。ロイド監督は、『マンマ・ミーア!』をメリルとやってから、どうしてももう一度彼女と組みたいと熱望したという。やはりメリルは、他の女優とは映画に向き合う姿勢が違うようだ。

「メリルは常に自分や周りの人たちに挑戦を課すの。彼女はたぶん、デビューした頃と全く変わらない情熱を持っているんじゃないかしら。全員のエネルギーを足しても、彼女のエネルギーには敵わないくらい、いつだって一生懸命よ。いつもアイデアを出してくるし、撮影が終わって編集の段階でも『もっとこうしましょう、ああしましょう』って電話をしてくるの。既に彼女が次の映画に入っているにも関わらずよ。そのエネルギーには本当に脱帽するわ」。

メリルは本作で、“鉄の女”と言われたイギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーの栄光と挫折を見事に体現した。周りがイギリス人俳優で固められた中、メリルだけアメリカ人女優ということが、政界で女性として孤軍奮闘していくサッチャーを演じるうえでプラスになったようだ。「確かに、メリルは最初、現場でアウトサイダー的だったかもしれない。イギリス人俳優たちも『本当にイギリス英語のアクセントができるの?』と、疑問視していたかもしれないし。でも、名女優と仕事ができるという興奮もあり、良い緊張感が生まれて、それがスクリーンに上手く出たんじゃないかしら」。

劇中で「私は、戦わなかった日はなかったわ」というセリフが印象的だが、第一線で活躍する女性は、きっとみんな戦っているのではないだろうか? ロイド監督にも聞いてみた。「そうね。女性で人の上に立つ仕事をしている人は、男性の10倍準備をしなくてはいけないし、間違いも許されない。私は今、50代だけど、映画を監督するまではいろんな戦いがあり、苦労もしてきたわ。本作では、サッチャーという女性を描いているけど、主演も脚本家も監督も女性ってことで、みんなで力を合わせてやっていったのよ」。

さらに、メリルについて「自分の立場をよく理解している人」だと称える。「彼女が取る行動は、撮影現場でも公の場においても、女性としての“見本”として見られるの。きっとメリルはそのことを意識して行動しているの。本当に素晴らしい女性よ」。

女優としてだけではなく、女性としても円熟期を迎えているメリル・ストリープと、彼女から素晴らしい演技を最大限に引き出したフィリダ・ロイド監督。この最強タッグだったからこそ成し得た『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は、“鉄の女”とレッテルを貼られたサッチャーの知られざる葛藤や、老いという普遍的なテーマを内包した、深みのある人間ドラマだ。映画を見終わった後、サッチャーを見る目線が少し温かく、少し切ないものになるかもしれない。【取材・文/山崎伸子】

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