第65回カンヌ国際映画祭コンペティション部門、前半の注目作品は?

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第65回カンヌ国際映画祭コンペティション部門、前半の注目作品は?

折り返しに来た第65回カンヌ国際映画祭。前半の注目作品を紹介しよう。

現在の下馬評ではミヒャエル・ハネケ監督『LOVE』の評判が高い。SCREEN誌(英語版映画誌でカンヌ特報で日報を出している。世界の映画記者による星取りあり)によると、パルム受賞者のルーマニア人監督クリスチャン・ムンギウ監督作品も同点だが、フランスの記者によるCINEMA FRANCES誌ではムンギウ作品はそんなに評価されてはいない。ううむ、私もそう思うな。

今年は昨年の『アーティスト』のような、「これはいける!!」という反応のあった作品が、前半の中ではジャック・オディアール監督『LUST & BONE』ぐらいだが、『LOVE』とアラン・レネ監督『YOU ARE'NT WATCH NOTING YET』は記者たちに温かい拍手で迎えられていた。この二本はどちらもベテラン俳優たちによるしっかりした演技が見みられる作品だ。レネは今までパルム・ドールと無縁だったので、ここで、ということもあるかなという感じも受けた。

『LOVE』はヌーヴェル・ヴァーグのスターからフランスを代表する俳優として活躍し、近年は舞台を中心に活動しているジャン=ルイ・トランティニャンと、『二十四時間の情事』(59)のエマニュエル・リヴァが老夫婦を演じている。突然、脳梗塞で半身の自由を奪われた妻は自宅での療養を望み、夫は献身的に介護する。物語は瀟洒なアパルトマンの中だけで進み、登場人物も夫妻と娘、その他はほんの数人にすぎない。長年連れ添ったインテリブルジョア夫婦の老介護の日々を綺麗事ではなくリアルに、淡々と描写していく。とはいえ、テーマは老介護ではなく、タイトルどおり愛についてである。システムがどう整っていようと老いと死と愛の最後は個人の問題になっていく。俳優二人の演技はそれぞれ賞に値するものだ。

対するアラン・レネの作品は、ジャン・アヌイの「Eurydice」を元にした群像劇。かつて「Eurydice」を演じた俳優たちが演出家の死の知らせで集まり、彼の遺言で若手による同作の上演ビデオを見るうち、それぞれの役を再び演じ始めるという入れ子構造になった、演劇的でかつ映像的な作品だ。舞台人としても有名なレネと俳優たちの才能が十二分に発揮されている。

二日目に上映された『LUST & BONES』は事故で両足を失ったシャチの調教師と、ベルギーからやって来た子連れボクサーの人生再生の物語。マリオン・コティヤールが生きる希望を取り戻していく様を描くのだが、そのきっかけになるボクサーの青年の無垢さが複層的でオディアールらしいキャラクターになっているのが面白い。無知と無責任と無欲と無垢がバイオレンスと共存しているのだ。愛情の示し方を知らず、父親としての愛はあっても責任感のない彼がコティヤールとの出会いを通じて、親として男として成長していく。

今までのオディアールの主人公に通ずるキャラクターだが、今回はメンターが女性である点がちょっと違う。コティヤールの演技も感動的で女優賞も期待できると思う。

もう一本評判の良いものを挙げると、トマス・ヴィンターベア監督『THE HUNT』が健闘している。保育士をしている元教師が児童虐待の疑いをかけられ、コミュニティから弾き出されていく。子供のちょっとした嘘から始まった大人たちの善意の行動が、結果として魔女狩りになっていく恐ろしさ、ターゲットになった男の悲劇が冷徹に描かれている。

今年はアメリカ映画がコンペティションに5本あり、どう扱われるか注目されているが、今のところ観客は集まるものの評価は今一つ伸びていない。最終的にどんなことになるか楽しみだ。

今年のカンヌは天気が悪い。雨・風・低温と、例年とは違う気候に体の不調を感じるプレスの人も少なくない。後一週間、どうにか風邪をひかず、レポートできることを祈っている。ハックション!!【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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