巨匠F・ワイズマン監督が語る“女性の美”を追及した渾身作の魅力とは?
独自のタッチで現代社会を映し出してきた、ドキュメンタリー映画界の巨匠フレデリック・ワイズマン。そんなワイズマン監督が自身の代表作『BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界』(95)、『パリ・オペラ座のすべて』(09)に続き、再びダンスをテーマに撮り上げた最新作『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』が6月30日(土)より公開される。今回、監督に映画の見どころやドキュメンタリーというスタイルに対するこだわりを語ってもらった。
まず初めに、本作を撮ることになったきっかけを聞いてみたところ、友人との何気ない会話から企画が始まったことを明かしてくれた。「パリにいた時に、友人から『パリのナイトクラブを舞台にした映画を撮る気はないか?』と聞かれたんです。そこで『撮ってみたい』と答えたら、街中のナイトクラブやキャバレーを連れ回されることになってしまって。その時、老舗ナイトクラブの『クレイジーホース』にも立ち寄ったのですが、そこで上演されていたショーがとても素晴らしくて。しかも振付師のフィリップ・ドゥクフレが新しいショーを準備している真っ最中とのことだったので、撮るなら今しかないと思い、早速交渉して、撮影させてもらえることになったんです」。
劇中には、新しいショーの製作に取り組む人々のドラマや、美しいダンスパフォーマンスなど、たくさんの見どころが盛り込まれているが、その中でも特にお勧めのポイントはどこなのだろう? 「映画全体を通して“女性の美とはどういうものなのか?”という問いを投げかけています。その他にも“こういった舞台の製作には、どれほどの努力が費やされ、どういった財務的制約があるのか?”とか“商業的なエロティックファンタジーとはどういうものなのか?”という、私なりの見解も盛り込んでいるので、そういった点も意識しながら見てもらえると嬉しいですね」。
ステージでは、ロープや鏡を使ったアクロバティックなダンスなど、思わず見入ってしまうパフォーマンスが次々に披露され、見る者を楽しませてくれる。続いては、そんなショーを撮影する際に用いた、独特の手法について話してもらった。「この手のパフォーマンスを撮影をする時は、他の作品ではできない有利なポイントが一つあります。それは、同じ演目が何回も撮れるということです。今回のクレイジーホースのショーは毎晩2回行われていて、土曜日だと一晩のうちに3回も上演されていました。そのため、各回ごとにワイドやアップ、見下ろすようなアングルや見上げるアングル、あるいは移動しながらなど、様々な視点からステージを撮影することができ、そのなかからより良いショットを組み合わせて、フィルム上に最高のパフォーマンスを再現することができたんです」。
本作をはじめ、これまでにも『チチカット・フォーリーズ』(67) 、『高校』(68)、『福祉』(75)など、多数の意欲的な作品を世に送り出してきたワイズマン監督。そんな監督がドキュメンタリー作家を志した理由とは何なのだろう? 「私は20代の頃、大学で学生たちに法律を教える仕事に就いていたのですが、どうもこれが性に合わなくて、毎日、大好きな映画のことばかり考えていたんです。そして、ちょうど30歳になった時に、嫌な仕事を続けるよりは、苦労してでも好きなことに取り組みたいと決心して、映画の世界に飛び込みました。そして、ドキュメンタリー映画を撮る理由ですが、日々の生活を注意して見ていると、まるでコメディのような笑い話や、複雑な人間ドラマ、悲しい出来事など、そういったものが至る所にあふれていることに気付かされます。それらを映像に収め、ドラマティックに編集し、一本の作品として世に送り出すことは本当に楽しいですし、これからも続けていきたいと考えています」。
最後にドキュメンタリー映画というジャンルや、独自の撮影スタイルについての考えを聞かせてもらった。「私の場合、テロップやナレーションを入れずに映像だけで見せる手法が好きなので、このスタイルを続けています。ですが、これはあくまでも私の性に合ったスタイルというだけで、必ずしも正解というわけではありません。世の中には、製作者の数だけオリジナルの撮影方法があり、それぞれが独自の考えで映画作りに取り組むからこそ、面白い作品が次々に作られていくわけです。今後も様々なドキュメンタリー作品が世に出ることを、同じドキュメンタリー作家として楽しみにしています」。
一切の説明的な要素を排し、映像の迫力のみで女性の美を映し出した渾身作『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』。70日間密着して撮り上げたという圧倒的な映像美や、華麗なダンスパフォーマンスの数々を是非ともスクリーンで体感してほしい。【六壁露伴/Movie Walker】