『コクリコ坂から』の宮崎吾朗監督と長澤まさみが語る、宮崎駿との三世代のコラボレーション
2011年度興行収入で、邦画第1位の44.6億円を記録した宮崎吾朗監督作『コクリコ坂から』のDVDが、6月20日にリリースされた。本作で、ヒロインの声優を務めた長澤まさみと、宮崎監督にインタビュー。舞台となる1963年の話から、宮崎駿、宮崎吾朗監督、長澤まさみによる三世代のコラボレーションについて、色々と話を聞いた。
『コクリコ坂から』の原作は高橋千鶴の同名少女コミックだが、脚本を手掛けた宮崎駿は時代設定を1980年代から1963年の横浜に移し、親子二世代の青春物語にシフトさせた。宮崎吾朗監督がメガホンを取るのは、『ゲド戦記』(06)に続き2作目だが、今回は作品に向き合う姿勢が明らかに違ったと語る。「世代的な特徴かもしれませんが、僕は形から入っちゃうタイプなんです。1963年の設定で、こういう人たちが出てくる話だとまず考える。でも、本当は逆で、こういう人たちのこういう部分を描きたいってところから入らないと駄目なんです。極端に言うと、設定やストーリーはさほど重要じゃなくて、人を描けるかどうかが大事なんだと、途中から気づいていきました」。
ヒロイン・松崎海役を演じた長澤は、1963年という時代をどのようにくみ取ったのか? 「監督から、この時代の人はみんな前を向いて歩いていて、自分の気持ちに曇りがない。すごく誠実で、駆け引きとかをしないし、やる気に満ちあふれていたとお聞きして。だから、人に告白する時も、自分の人生をかけて『好きです』と言うし、それが、イコール結婚なんだってことを聞いた時、私は白黒はっきりしている方が好きなタイプなので、この時代に生まれたかったなって思いました。この時代はみんなが胸を張って、凛としている。そういうところを真似しなくちゃって思いました」。
宮崎駿の脚本を、宮崎吾朗監督が手掛け、長澤がヒロインに息を吹き込んだ。親子二世代の物語を、三世代のスタッフとキャスト陣によって手掛けた点も興味深い。宮崎吾朗監督は「世代によってものの見方が違う」と感じたと語る。
「今回、脚本を書いた宮崎駿は戦争中に生まれ、戦後を生きてきた世代で、その人たちが考える何かってものは重みがあるんじゃないかと感じました。自分がわかる範囲でやっていると、すごく視野が狭くなってしまう。だから、その世代からのものを受け取りつつ、それに自分のものも入れて、さらに次の人に渡す。結果的にそうなりました。今後も自分の視野を広げていく努力をしなきゃいけないとも思いました」。
長澤は、三世代のコラボレーションについて、「みんなが求めているものってシンプルなんだと思いました」と言う。「今ってすごく時代の流れが速いから、ちょっと年下の子でも、感覚や価値観が自分とは違うなと思う事もしばしばあります。だけど、根本にあるものは一緒だし、愛って変わらないものだとも思いました。どの世代でも、アプローチの仕方は違うかもしれないけど、最後に行き着くのはすごくシンプルなところなんです。それをわかるまでの時間や道のりが違うだけで。特に、震災が起こって、みんなが同じようなことを思ったんじゃないかと」。
宮崎監督も価値観についてこう語った。「現代は、損か得かってことが、いろんな価値判断の基準になってしまった。これはお金になるとか、ならないとかでよく判断されるんです。でも、本当はそうじゃないのかなって。プロデューサーに『この時代(1963年)は、清く貧しく美しくなんだよ』って言われてた時、え?と思ったんですが、やってみるとそういうことなんだって納得していきました。そういう心を取り戻さないといけない気がします」。
忘れかけていた何かを取り戻す。『コクリコ坂から』を見ると、じんわりとその言葉の重みが伝わってくる。いろんな意味で、今、改めて見ておきたい人間ドラマである。【取材・文/山崎伸子】