戦後歴史の闇を斬った衝撃作『汚れた心』。ブラジル人監督は「ガイジンだから撮れた」
第二次世界大戦後のブラジルで、日系移民たちの間で起こった衝撃的事件を映画化した『汚れた心』(7月21日公開)。伊原剛志、常盤貴子、余貴美子、菅田俊、奥田瑛二という演技派俳優陣を束ねてメガホンを取ったのは、ブラジル人監督ヴィセンテ・アモリンだ。彼は何ゆえ、歴史のタブーに対して果敢に斬り込んで行けたのか?来日したヴィセンテ・アモリン監督に興味深い撮影秘話を聞いた。
第二次世界大戦直後、大勢の日系移民たちは、戦況の確かな情報が得られず、日本が勝利したと信じて疑わなかった。生粋の愛国主義者・タカハシ(伊原剛志)もその一人で、やがて真実を知った彼らの間で、凄惨な争いが起こる。フェルナンド・モライスの原作を読んだ監督は、「人種差別や真実が歪曲された悲劇を扱っていた。また、スリラーで、ラブストーリーでもあり、深い映画になるんじゃないかと思った。ブラジル人や日本人だけではなく、できれば世界中の人々を動かす映画にしたかった」と語った。
とはいえ「とてもデリケートな問題」だと感じた監督は、脚本家と共に入念なリサーチを2年ほど行ったが、途中で横槍が入ったりもしたそうだ。「年配の方から、『なぜ今さらこんな物語を語るんだ?恥じゃないか』と言われたりしたが、僕たちがどれだけ敬意を持って、このテーマを扱うかを説明することで、その抵抗はなくなっていった。僕たちはセンセーショナルな問題を扱いたかったわけじゃない。大事なことは、真実を敬意を込めて伝えることで、馬鹿げたアクション映画にだけは絶対にしたくなかった」。
伊原剛志ら日本人のキャスティングについても聞いた。「ブラジルの国外でうまく映画が機能するには、日本人のしっかりとしたキャストが必要不可欠だと思った。日系ブラジル人で世界的に活躍している役者は少ないからね。日本映画をたくさん見て、多くの役者のオーディションをしたよ。言葉はわからなくても、良い役者かどうかの判断はつくからね。結果的に海外での経験を踏まえた人たちになったのは偶然だけど、彼らがより意識の開かれた人たちだったことは確かだ。実際、彼らは素晴らしかった。真面目さ、知性、正確さ。力強くて、刀のようだった」。
また、この映画を見た日系ブラジル人から、「これはガイジンでなければ作れなかった」と言われたという監督。「日本人や日系ブラジル人が撮った場合、歴史が抱えている重荷を注ぎ込みすぎるんじゃないかな。もしくは、問題を繊細に扱えなかったのではないかと僕も思うよ」。
最後に監督は、本作のテーマについて訴えかけた。「挑んでいるテーマは数十年昔のものだけど、現在においても十分整合性がある。気をつけなければいけないのは、社会のどこにいても常に誘惑があるということ。だから、この物語を過去の産物として受け止めるのではなく、今に反映して考えてもらえたら、初めて自分の使命が果たされた気がするよ」。
これまで大っぴらに語られていない歴史の闇に対峙した『汚れた心』。真摯な姿勢で本作を手掛けたヴィセンテ・アモリン監督と、伊原剛志らキャスト陣全てに敬意を表したい。【取材・文/山崎伸子】