役所広司、ニューヨークで宣言!「良い大人が活躍できる映画を作り続けたい」
7月12日からニューヨークのジャパン・ソサイエティーで開催されている第6回JAPAN CUTS ジャパン・カッツ!で、日本が誇る名優・役所広司の偉業を称え、主演作6作品が上映された。また「Cut Above Award for Excellent in Film」の授賞式が行われ、役所がニューヨークの舞台に登壇した。
今回上映されたのは、海外からもオファーが殺到しているという沖田修一監督作『キツツキと雨』、そして“役所広司デー”では自身の転機となった大ヒット作『Shall We ダンス?』(96)、『CURE』(97)、初監督・主演作『ガマの油』(09)、最新作『わが母の記』(12)、昨年のニューヨーク・アジア映画祭で上映され拍手喝采を浴びた『十三人の刺客』(10)の5作品で、圧倒的な演技力でニューヨーカーたちを魅了した。
『キツツキと雨』で登壇した役所は、「ニューヨークの皆様、Good Evening!今日は来てくださってありがとうございます。(司会と通訳の)英語に挟まれてちょっと緊張しています(笑)」と挨拶。早速、会場の笑いを誘ったが、偉大な俳優を前に、挨拶だけで満席の観客席はスタンディングオベーションに包まれた。
「今日は皆さんにお礼を言いにこの地にやって来ました。『キツツキと雨』は、3.11の震災から一週間後にクランクインしました。『こんな大変な時に映画を撮っていて良いのだろうか』という思いもありましたが、スタッフ共々、『ユーモアのある映画を撮って、少しでも被災地の方々に笑顔を取り戻していただければ』という気持ちで撮影に望みました。ちょっと映画とは外れますが、震災後すぐに“トモダチ作戦3・11”などで我々を助けてくださったことを、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。被災地の皆さんは頑張っていますが、まだまだ長い戦いです。これからも応援を宜しくお願いします!」と日本を代表して、アメリカにお礼を述べた。
長年に渡って映画界にもたらした功績を称えて設立された第1回Cut Above Award for Excellent in Filmを受賞した役所は、「僕が仲代達矢さんと出会った時、ちょうどこの場所で仲代さんの特集をやっていると聞き、『すごい俳優さんなんだな』と改めて感じたことを覚えています。そこに自分がいるなんて何だか夢のようです」と謙虚に喜びを語り、クリスタルのトロフィーを愛おしげに眺める姿がとても印象的だった。
『キツツキと雨』は、山間の静かな村を舞台に、役所扮する無骨な木こり・克彦と、小栗旬扮する気の弱い新人映画監督・幸一が出会い、ゾンビ映画の撮影を通して互いに影響を与えあいながら成長していく姿を描いた作品。ほんのりと心温まる作品ながら、ニューヨーカーたちは役所扮する克彦のちょっとした表情やゾンビ姿などに大ウケだった。上映後の質疑応答で再び登壇した役所は、「僕は自分が出演している作品は一回しか見ないので、観客と一緒に映画を見たのは、実は今回が初めてなんです。お客さんが楽しんでくれている様子がとても嬉しく、また楽しかったです。皆さんにこの映画の面白いところを教えてもらいました」と、満面の笑みでニューヨーカーの反応を称えた。
様々なジャンルで名演技を見せてくれる独自の役作り方法については、「台本を読んで最初に感じた印象を大切にしています。その時、感じたことを逃さないように、現場に行ったら全てを忘れて、そこで感じたことを信じて演じています。『カット』と言われたらすぐに気持ちを切り替えて自分に戻れれば良いのですが、なかなか難しいようですね。自分ではそのつもりでも、家族からは『普通と違う』と言われたりしています(苦笑)。今回の作品で演じた克彦は、これまでいろんな映画でお邪魔した場所でこういう人たちによく出会ったので、その人たちを参考にしました(笑)」
「『ガマの油』では出演もしましたが、監督をやった経験を通じて感じたことは、演技の上手い、下手ではなく、どれだけ作品に情熱を持っているかが期待されているということです。なので、俳優として作品に参加する時は、チームやメンバーから『良い仲間』と思われるように仕事をしています」と、熱心に観客からの質問に耳を傾け、一つ、一つ丁寧に答えてくれた。
日本の映画界を背負う名優でありながら、自らの長すぎる回答に気がついて途中で話を止めるなど、通訳にまで配慮を見せる辺りはさすがだ。観客は、常に謙虚な姿勢を崩さない役所に敬意を表し、真剣に彼の話に聞き入っていたが、リメイク版『Shall We Dance?』(04)の主演リチャード・ギアのキャスティングについて問われた役所が、「本当に素晴らしい、僕も大好きな役者さんですが、『社交ダンスが似合わない』という点では、僕の方が勝っていたかなと思います(笑)」と、ちょっとした自信をのぞかせると、会場は笑いの渦に包まれた。
今後については、「どの映画とか、どの役に思い入れがあるというのは、特にありません。全てが僕にとっては大事な作品で、これからもいただいた役どころを一生懸命演じるだけですが、昨今いじめで自殺する子供が増えているというニュースをよく耳にします。大人が良くないのだと思うので、子供たちがお手本にできるような良い大人が活躍できる映画を作りたいです」
「日本で、サムライ映画の人気が衰退しているのはとても残念なことです。時代劇には、日本人が豊かに生きていくために必要だったり、参考になるキャラクターがたくさんいるんです。僕たちが子供の頃は、ちゃんばらごっこで遊んでいましたが、今の子供はそういう遊びをしないので、一から教えないといけませんね」と語り、使命感を持って、今後も日本の良さを守りながら日本映画界に貢献していこうという強い意志を表明してくれた。
これまでもアカデミー作品賞にノミネートされた『SAYURI』(05)や『バベル』(07)などに出演し、今後も日本のみならず、世界での活躍が期待されている役所は、「英語を勉強します。今度は英語で受賞スピーチをしたいと思います」と約束してくれたが、「仕事ではなく、最初に自分の意思で訪れた街」というニューヨークに戻って来てくれるのはいつなのか?ニューヨーカーたちは一日も早くその日がやって来ることを、今から心待ちにしている。【取材・文/NY在住JUNKO】